研究課題/領域番号 |
23730697
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研究機関 | 新潟大学 |
研究代表者 |
白井 述 新潟大学, 人文社会・教育科学系, 准教授 (50554367)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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キーワード | 乳児 / 運動視 / 移動行動 / 発達 |
研究概要 |
自己運動に伴って生じる光学的流動の知覚など、運動視の機能は、観察者自身の身体運動の認識・制御にとって重要な視機能である。そうした運動視機能の発達的変化について、特に乳児期における移動行動の発達との関係に注目して実験心理学的な検討を実施した。 本年度は生後5ヶ月~12ヶ月までの乳児100名超を対象に実験を行った。実験は2つの手続きからなり、まず放射運動や回転運動などの相対運動パタンに対する視覚選好を選好注視法によって測定した。また、それと同時に乳児の自律的な移動行動のパフォーマンスについての観察評価を行った。 各運動パタンへの視覚選好と移動行動の有無との関連について分析したところ、移動行動の獲得前後で縮小運動パタンに対する選好が統計的に有意に低下することが明らかになった(Shirai & Imura, 2011, ECVP; 白井・伊村,2011,日本基礎心理学会、など)。一方、すべての運動パタンに対して、単純な月齢の増加に伴う視覚選好の変化は認められなかった。こうした発達的傾向は、移動行動の獲得に前後して視覚機能、特に運動視の機能に顕著な変化が生じる可能性を示唆する。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
本研究の主たる目的は、放射運動をはじめとする各種の相対運動パタンの知覚と移動行動それぞれの発達過程間の相互作用を解明することである。特に移動行動の発達的個人差に注目し、移動行動の成熟と、運動視機能の発達との関連を同一個人内で縦断的に評価し、運動視機能が移動行動の制御機構に統合されていく過程を精査し、その定型発達を明らかにすることを目指すものである。 今年度は、100名を超える乳児を対象に、横断的な手法を用いて、移動行動と運動視機能の発達における相互作用を検討した。その結果、移動行動の獲得前後で、放射状の縮小運動に対する視覚選好が低下するという知見を得た。現在これらの知見について、同様の実験を数十人規模の乳児を対象に縦断的手法を用いて実施することによって再検討している。 当初計画においては、初年度は2年目以降の縦断研究のための予備的検討として横断的手法による実験を繰り返す予定であったが、想定よりも早いペースで実験が進行したため初年度後半には縦断研究を開始することができた。 こうした状況から、現状における本研究の達成状況は当初想定していたよりも進んだ段階にあるといえる。
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今後の研究の推進方策 |
今年度については、放射状の拡大・縮小運動に対する視覚選好の発達と、自律的な移動行動の発達の関係について、昨年度から継続して縦断的調査を実施する。 また、近年のヒト成人を対象とした心理物理学的研究からは、観察者自身の身体移動に伴って視運動パタンに対する検出感度がダイナミックに変化する可能性が示唆されている(例えばShirai & Ichihara, in press)。したがって、乳児期の運動視機能にも同様の傾向が生じるのか、またそうした傾向は移動行動の経験とどのようにリンクするかについて、移動行動獲得前後の乳児を対象に、今年度から来年度にかけて心理物理実験によって検討することを予定している。
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次年度の研究費の使用計画 |
主な使用計画としては以下のような項目が挙げられる。 第一に長期にわたる縦断研究を継続していくためには、実験に参加する乳児やその家族からの献身的な協力が不可欠である。そうした協力関係を維持するためには、参加家族にそれ相応の経済的コストを強いることになるため、十分な謝礼の受け渡しが必要になる。したがって、本年度も継続して相当額の謝礼の準備する。それに関連して発生する、実験協力者への資料などの送付料、あるいはそうした作業に従事するパートタイマーへの謝金なども必要となる。なお、前年度分予算に未使用額が生じたが、これは平成24年1月~2月にかけての繁忙期に、大雪の影響で予定されていた実験の多くが中止、延期となったため生じたものであり、延期された実験の協力者への謝礼や、実験実施に伴う諸作業に従事するパートタイマーへの謝金等として確保していた金額である。延期分の実験は順次再開されつつあり、前年度分の未使用額については前述のような事情で次年度にまわった実験を実施するために使用する予定である。 また、前年度に得た研究成果を積極的に公表するために、学術論文執筆にかかわる諸経費や、あるいは国内外の学会などへの参加経費を計上する予定である。 その他、実験実施に伴って生じる各種機材の保守、管理、更新費用なども予定している。
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