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2012 年度 実施状況報告書

移動行動と放射運動知覚の相互作用的発達に関する実験心理学的検討

研究課題

研究課題/領域番号 23730697
研究機関新潟大学

研究代表者

白井 述  新潟大学, 人文社会・教育科学系, 准教授 (50554367)

キーワード乳児 / 移動行動 / 運動視 / 視覚と身体 / 発達 / 縦断研究
研究概要

環境中での移動など、観察者自身の身体運動にともなって生じる視覚運動パタン(光学的流動)は、私たちの身体運動の認識、制御に重要な役割を果たす。発達初期に獲得される「ずりばい」や「ハイハイ」といった移動行動の熟達と、光学的流動知覚の発達との間にどのような関係があるのかを心理物理実験と行動観察によって縦断的に検討した。
20名の乳児が毎月調査に参加した。調査では、保護者への聴き取り調査と実験室での行動観察に基いて、乳児の移動行動(前方へのずりばい、ハイハイ、伝い歩き、あるいは独歩)の可、不可を評定した。それと同時に、放射状に拡大(前方への身体運動を表象)または縮小(後方への身体運動を表象)する光学的流動パタンへの視覚選好を測定した。乳児が初めて自律的な移動行動を生じた月齢を「0ヶ」月として定義し、そこから遡って過去3ヶ月の期間をそれぞれ「-3」、「-2」、「-1」ヶ月として、その間の光学的流動に対する視覚選好の発達的変化について分析した。調査の結果、-1ヶ月と0ヶ月の期間において、-3ヶ月時に比べて縮小状の光学的流動に対する視覚選好が有意に低下した。一方、拡大状の光学的流動に対する視覚選好は、調査期間を通して比較的高い水準で安定していた(白井・伊村,2012,日本基礎心理学会大31回大会)。
これらの結果は、ずりばいやハイハイなどの移動行動を獲得する直前に、そうした行動と関連の深い視覚機能、すなわち光学的流動の知覚に大きな発達的変化が生じることを示唆する。移動行動のような身体運動の発現に先立って、それと関連する視覚機能の様相が変化することによって、その後の身体運動発達をより効率的に導くような発達メカニズムが存在する可能性があるといえる。

現在までの達成度 (区分)
現在までの達成度 (区分)

1: 当初の計画以上に進展している

理由

本研究の主要な目的は、放射運動やその他の相対運動によって構成された光学的流動パタンの知覚と移動行動の発達との相互作用を実験的に検討することである。当初計画では、平成24年度から平成25年度にかけて、縦断的な手法を用いて移動行動の成熟と運動視機能の発達との関連を時系列に沿って同一個人内で評価し、運動視機能が移動行動の制御機構に統合されていく過程を精査することを目的としていた。
こうした計画に基づき、平成24年度は20名の乳児を毎月縦断的に調査し、研究実績の概要に示したような知見を見出した。これによって、当初次年度まで継続予定の研究計画のほとんどを平成24年度内に完遂した。
また、そうした研究と並行して、当初の研究計画を小学生などを対象に拡張して実験的検討を実施し、小学生と成人とでは光学的流動に基づく身体運動知覚の傾向が異なることを実験的に示すなど、一定の成果(Shirai, Seno, & Morohashi, 2012, Percpetion)を得た。
こうした状況から、平成24年度における研究計画は当初の想定以上に進展したといえる。

今後の研究の推進方策

平成25年度も現状の研究体制を維持して、乳児を対象とした縦断的研究を引き続き継続しながら、ハイハイや伝い歩きなどの移動行動のみならず、つかまり立ちやひとり立ち、ひとり歩きなどの姿勢制御能力の発達と、光学的流動知覚の発達との関係についても調査を実施し、これまでに本研究計画によって得られた知見を拡張するよう努める。
また、実験計画を小学生や中学生、あるいは就学前児を対象としたものに拡張していき、放射運動を始めとする様々な光学的流動パタンの知覚と移動行動や姿勢制御などの身体運動の認識、制御が発達の各段階においてどのような相互作用を持つのかを明らかにすることを目指す。

次年度の研究費の使用計画

主な使用計画としては以下のような項目が挙げられる。まず前年度までと同様に、長期にわたる縦断研究を継続していくためには実験に参加する乳児やその家族からの献身的な協力が不可欠である。そうした協力関係を維持するためには、参加家族にそれ相応の経済的コストを強いることになるため、十分な謝礼の受け渡しが必要になる。したがって、本年度も継続して相当額の謝礼の準備をする。また、そうした手続きに関連して発生する実験協力者への資料などの送付料、あるいはそうした作業に従事するパートタイマーへの謝金なども必要となる。
また、次年度は最終年度であるので、研究期間を通して蓄積された研究成果の積極的な公表をこれまで以上に精力的に実施する必要がある。そうした作業に伴って生じる諸経費学術論文執筆の際の英文校正費、投稿料、国内外の学会などへの参加経費など)を計上する予定である。
その他、実験実施に伴って生じる各種機材の保守、管理、更新費用なども予定している。

  • 研究成果

    (9件)

すべて 2013 2012

すべて 雑誌論文 (2件) (うち査読あり 2件) 学会発表 (6件) 図書 (1件)

  • [雑誌論文] Reduction in sensitivity to radial optic-flow congruent with ego-motion2012

    • 著者名/発表者名
      Shirai, N., & Ichihara, S.
    • 雑誌名

      Vision Research

      巻: 62 ページ: 201-208

    • DOI

      10.1016/j.visres.2012.04.008

    • 査読あり
  • [雑誌論文] More rapid and stronger vection in elementary school children compared with adults.2012

    • 著者名/発表者名
      Nobu Shirai, Takeharu Seno, Sachie Morohashi
    • 雑誌名

      Perception

      巻: 41 ページ: 1399-1402

    • 査読あり
  • [学会発表] 移動行動の発達が乳児の視運動知覚に及ぼす影響2012

    • 著者名/発表者名
      白井述・伊村知子
    • 学会等名
      日本基礎心理学会第31回大会
    • 発表場所
      九州大学、福岡
    • 年月日
      20121104-20121104
  • [学会発表] 乳児期におけるスリット視条件下での大域的形態知覚の再検討2012

    • 著者名/発表者名
      伊村知子・白井述
    • 学会等名
      日本基礎心理学会第31回大会
    • 発表場所
      九州大学、福岡
    • 年月日
      20121104-20121104
  • [学会発表] 乳児における動的な主観的輪郭知覚の位相差による影響2012

    • 著者名/発表者名
      佐藤夏月・増田知尋・和田有史・白井述・金沢創・山口真美
    • 学会等名
      日本基礎心理学会第31回大会
    • 発表場所
      九州大学、福岡
    • 年月日
      20121103-20121103
  • [学会発表] 動的な主観的輪郭と実輪郭における知覚された形状の類似性に関するMDSを用いた検討2012

    • 著者名/発表者名
      増田知尋・佐藤夏月・村越琢磨・木村敦・白井述・金沢創・山口真美・和田有史
    • 学会等名
      日本基礎心理学会第31回大会
    • 発表場所
      九州大学、福岡
    • 年月日
      20121103-20121103
  • [学会発表] MDSによる動的な主観的輪郭と実輪郭の類似性の検討2012

    • 著者名/発表者名
      増田知尋・佐藤夏月・村越琢磨・木村敦・白井述・金沢創・山口真美・和田有史
    • 学会等名
      日本心理学会第76回大会
    • 発表場所
      専修大学、川崎
    • 年月日
      20120911-20120911
  • [学会発表] Early development of dynamic shape perception on the slit viewing condition.2012

    • 著者名/発表者名
      Tomoko Imura, Nobu Shirai
    • 学会等名
      35th European Conference on Visual Perception
    • 発表場所
      Alghero, Italy
    • 年月日
      20120905-20120905
  • [図書] 栗原隆(編)感情と表象の生まれるところ2013

    • 著者名/発表者名
      白井述
    • 総ページ数
      234(著者担当箇所:39-52)
    • 出版者
      ナカニシヤ出版

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公開日: 2014-07-24  

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