研究概要 |
本研究計画の目的は、無意識的学習パラダイムを応用した新しい実験系を構築し、複雑な視覚場面における選好・印象形成過程の心理的メカニズムの解明であった。その目的を達成するために、対象の物理的特徴と観察者の来歴の効果がどのように相互作用するかに着目して実験的検討を進めてきた。特に視覚場面の全体的特徴に対する処理と場面を構成するオブジェクトという局所的特徴に対する処理の関係を明らかにすることによって、複雑な場面における選好・印象形成過程を検討してきた。本研究計画では、「実験系の確立」「刺激の物理特性と観察者の来歴の相互作用の解明」「視覚場面の全体的特徴と局所的特徴の相互作用」の3つのサブゴールを設定していた。 本年度は、初年度で確立された刺激データベース及び実験系をもとに検討を進めた。まず、視線手がかり課題(Bayliss & Tipper, 2007)における視線の予測性による顔の印象評定への影響のメカニズムを明らかにするために、顔の呈示回数を操作することによって、顔ごとの親近性・新奇性を操作して選好への影響を検討した。その結果、課題内に非常に新奇な顔(呈示回数1回)が存在する場合には、顔の呈示回数が増加するにつれて有効手がかり顔に対する信頼性判断が低下するという予想に反した結果が得られた。非常に新奇な顔が呈示されない場合にはそのようなバイアスは観察されず、呈示回数に伴って顔の信頼性が上昇する結果が認められた。これらの結果をもとに、視線知覚による印象形成メカニズムにおける、親近性と新奇性の重み付けと課題構造の関係について現在も検討を進めている。「視覚場面の全体的特徴と局所的特徴の相互作用」についても個々の顔刺激の魅力性と課題構造との関係を現在検討中である。
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