睡眠とエネルギー代謝は密接に関連していることが知られている。ケトン体 (アセト酢酸、βヒドロキシ酪酸) は、絶食や高脂肪食摂取など、グルコースが枯渇した状態で脂肪酸が代謝される際、主に肝臓で産生され脳の主要なエネルギー源として利用される。最近の報告では、ケトン体は肝臓だけでなく、アストロサイトにおいても産生されることが明らかとなっている。我々は、絶食時におけるケトン体産生において重要な役割を果たすperoxisome proliferator-activated receptors (PPARs) のアゴニストの中枢投与が、ノンレム睡眠時の脳波デルタパワーを増大させることを見出した。また、これらのアゴニスト投与は、記憶、学習能といった高次脳機能にも影響を及ぼす傾向が示された。マウスに6時間にわたる断眠を行ったところ、末梢血中のケトン体濃度の顕著な増大が認められた。さらに、断眠は大脳皮質や視床下部において、ケトン体合成の律速酵素である3-hydroxy-3-methylglutaryl-CoA synthase 2 (Hmgcs2) のmRNA発現増大を引き起こした。Hmgcs2はアストロサイトにおけるケトン体合成に重要な役割を果たす。そこでマウスの脳室内にHmgcs2のアンチセンスオリゴヌクレオチドを投与し、中枢Hmgcs2遺伝子をノックダウンしたところ、暗期の睡眠量の低下、明期のノンレム睡眠時の脳波デルタパワーの増大、断眠後の体温低下が認められた。ことから、脳内の脂質体代謝が睡眠のホメオスタシス制御に重要な役割を果たすことが示唆された。
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