研究課題/領域番号 |
23730709
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研究機関 | 生理学研究所 |
研究代表者 |
鶴原 亜紀 生理学研究所, 統合生理研究系, 特別協力研究員 (40342688)
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キーワード | 空間知覚 / 奥行き手がかり / 乳児 / 脳磁図 |
研究概要 |
本研究の目的は、三次元空間の知覚における情報の統合について発達過程を検討することである。H24年度には、まず、発達研究に関する欧文学術論文2編が国際誌に採択された。1編は両眼視によって得られる両眼奥行き手がかりについて、両眼に映る像の水平方向のずれである水平視差と、垂直方向のずれである垂直視差から乳児が奥行きを知覚できるか検討し、乳児が垂直視差を手がかりとして奥行き知覚ができる可能性を世界で初めて示したものである。さらに、本研究から、乳児も成人と同様に水平視差と垂直視差で異なる情報処理をしている可能性が示唆された。これは、乳児でも、同じ両眼奥行き手がかりでも、2種類の視差による情報の統合が必要であることを意味するものである。この研究は成人を対象とした垂直視差研究を長年実施してきた東京工業大学の金子寛彦准教授らとの共同研究であり、論文作成には、両眼視差に関する発達研究を実施してきたドイツ・ボン大学Michael Kavsek私講師の助言を得た。もう1編では単眼視と両眼視における乳児の選好注視を比較した。この研究で、両眼視において、5ヶ月児では、視距離が短ければ両眼手がかりによる奥行き情報と矛盾しない注視行動を示し、視距離が長ければ単眼手がかりと矛盾しない注視行動を示した。これは、単眼奥行き手がかりと両眼奥行き手がかりによる情報の統合が視距離に依存することを示唆するものである。本研究は、乳児の空間知覚に関する世界的な第一人者である米国・ミネソタ大学Albert Yonas教授らとの共同研究である。 さらに、脳磁図を用いて成人の脳活動の計測研究を実施し、空間周波数によるヒト視覚領野の活動の違いを明らかにし、欧文学術論文1編が国際誌に採択された。本研究は、被験者からの直接の応答を取れない乳児実験において、比較的初期の処理の影響を分離するために必要な研究である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本申請研究の全体の目的は、三次元空間の知覚における情報の統合について発達過程を検討することである。両眼視によって得られる両眼奥行き手がかりと単眼視によって得られる単眼奥行き手がかりの情報処理については、非常に順調に進展し、予想以上の成果を挙げられたと言える。まず、両眼に映る像の垂直方向のずれである垂直視差を乳児が奥行き知覚の手がかりに用いていると考えらえる注視行動を世界で初めて報告し、水平視差と垂直視差で異なる情報処理をしていることを示唆した。乳児の水平視差による奥行知覚に関する先行研究はあるが、本研究より、乳児でも、同じ両眼奥行き手がかりでも、2種類の視差による情報の統合が必要である可能性が示されたと言える。さらに、単眼視と両眼視における乳児の選好注視を比較し、5ヶ月児において、単眼奥行き手がかりと、両眼奥行き手がかりによる情報の統合が視距離に依存することを示唆する結果を示した。 静止像の統合の検討については、計画を変更し、H24年度からの研究代表者の所属変更を生かし、脳磁図を用いて成人の脳活動を計測研究を実施した。乳児を対象とした予備実験において、刺激の種類による結果のばらつきが見られ、刺激の輝度やコントラスト、空間周波数などの影響が考えられたのである。これまでに、空間周波数によるヒト視覚領野の活動の違いを明らかにし、欧文学術論文1編が国際誌に採択された。当初の計画からは変更となったが、被験者からの直接の応答を取れない乳児実験において、成人の脳活動の計測研究は、比較的初期の処理の影響を分離できることにつながる研究として着実に成果を挙げており、引き続き研究が必要であると言える。
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今後の研究の推進方策 |
H25年度は引き続き成人の脳活動を計測研究を実施することを予定している。当初予定していた静止像の統合の検討についての乳児を対象とした実験の予備実験において、刺激の種類による結果のばらつきが見られ、刺激の輝度やコントラスト、空間周波数などの影響が考えられた。被験者からの直接の応答を取れない乳児実験において比較的初期の処理の影響を分離できることにつながる研究として、成人の脳活動の計測研究は着実に成果を挙げており、引き続き研究が必要であると言える。計測実施については、これまで脳磁図・脳波計測についての多くの実績を有する生理学研究所の柿木隆介教授・乾幸二准教授の助言を仰ぐ。 本研究の目的のもう1つである単眼奥行き手がかりと両眼奥行き手がかりの情報の統合の検討についての発達研究は、非常に順調に進展し、既に2編の欧文論文を発表し、予想以上の成果を挙げられたと言える。H25年度はさらに1編を投稿予定である。論文作成のため、共同研究者である中央大学山口真美教授・米国ミネソタ大学Albert Yonas教授からの助言を仰ぐ。
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次年度の研究費の使用計画 |
H25年度は引き続き成人の脳活動を計測研究を実施することを予定している。大きな支出として、刺激の輝度・コントラストを正確に計測するための輝度計の購入を予定している。また、実験実施にあたっては、刺激提示用プログラムのライセンス(1年間)を購入する必要がある。計測においては金属はノイズの原因となるため、裸眼正常視力を有する被験者を集める必要があり、被験者謝金が必要となる。 そして、研究成果の発表・神経生理学・視知覚に関する最新の情報収集のため、国際学会を含む学会発表・学会参加を予定しており、その参加費ならびに旅費が必要となる。研究成果は国際誌への欧文論文投稿も予定しているため、投稿・掲載料および英語を母国語とする専門家による英文校閲の謝金が必要となる。 また、本研究の目的のもう1つである単眼奥行き手がかりと両眼奥行き手がかりの情報の統合の検討についての発達研究について、H25年度はさらに1編の欧文論文を投稿予定であり、論文作成のため、共同研究者である中央大学山口真美教授からの助言を仰ぐため、東京へ出張し、打ち合わせを行なう必要がある。もう1名の共同研究者である米国ミネソタ大学Albert Yonas教授とは、パソコンによるビデオ通信での打ち合わせを予定しており、マイク・カメラが必要となる。また、この論文についても投稿・掲載料および英語を母国語とする専門家による英文校閲の謝金が必要となる。
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