研究実績の概要 |
26年度には、23年度に行った実験と投与部位を同じにし、NMDAの効果を再検討したが、効果は見られなかった。これまでの結果を総合すると、time shift paradigmをピークインターバルに適用する際の留意点が浮かび上がった。すなわち、たとえば通常のピークインターバル課題では一つのセッションのなかに強化試行と無強化試行(記憶のテスト)が混在しており、強化試行で形成された記憶が数分間持続できさえすれば、無強化試行において新たな時間の記憶が反映された成績となる。実際に、恐怖条件づけにNMDA受容体阻害薬を適用した実験では、NMDA阻害薬を投与しても数分後のテスト試行では条件づけが成立する(Kim et al., 1992)。このため、テストでは無強化試行のみを行う手続きに変更することで、NMDAやM1受容体阻害やMAPK/ERK経路阻害の効果を検出できるかもしれない。また、恐怖がインターバルタイミングに与える効果についても検討し、恐怖を条件づけた刺激の持続時間はそうでない刺激よりも過小評価されること、このような効果は条件づけ前に扁桃体にGABAA作動薬を投与し、条件づけを妨害することによって起こらなくなることを明らかにした。このことは、恐怖による時間評価の歪みに扁桃体が関与していることを示唆する。 本研究全体では、当初予想した結果が得られたが、その効果は頑健ではなく、最終的には行動課題を再検討すべきという段階に戻らざるを得なかった。一方で、情動による時間評価の歪みに扁桃体が関与していること、また線条体ニューロンの一部は新たな時間の長さの記憶形成時に活動が高まること、などの新たな研究の端緒をつかむこともできた。
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