本研究の目的は、近代教育思想の祖と評されるルソー(J.J.Rousseau.1712-1778)の教育思想について、それがキリスト教的な倫理観を基盤にして構想されたものであり、宗教なくしては成立し得ない人格形成論であったという観点に立ち、これまで概して、近代啓蒙主義的ヒューマニズムの流れの中で合理主義的に解釈されることの多かった『エミール』を、宗教的世界観との連続性に着目しつつ、全面的にとらえ直すことであった。研究期間中は、従来の教育学研究があまり重要視してこなかったルソーの著作群、すなわち『社会契約論』や『ポーランド統治考』といった比較的政治学的色彩の濃いもの以外の著作群や、それらに関連した史資料(和文・欧文双方を含む)を中心に分析を進める必要があったが、本助成金をいただいたおかげで、2012年度のルソー生誕300年を記念して新たに刊行されたルソー全集や研究論文等を収集・閲覧したり、ジュネーブで開催されたルソー生誕300年記念事業の数々(国際大会含む)に参加したりすることができ、より広範で多角的な視点からルソーの教育思想を捉え直すことができた。とりわけ、本研究では、『エミール』の続編でありながら、今日まで十分な評価が与えられてきたとは言い難い『エミールとソフィ』という作品について、ルソーの教育思想をとらえ直す上では改めて再評価されるべき著書であるという確信を得たことは大きな収穫であった。
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