平成25年度は、学校でのシティズンシップ(市民性)教育への反対論を検討することで、現代の社会において市民性教育を行う上での留意点を明らかにする研究を論文の形にまとめ、「学校での市民性教育への反対論の検討―左派の立場への偏向・論争的な問題・『不都合な真実』―」というタイトルの論文として発表した。 また、熟議民主主義の観点から、市民性教育における望ましい議論・熟議のあり方を検討する研究を行った。その成果の一部を現在、「市民性教育における議論・熟議―熟議民主主義と議論・熟議の基本的ルール―」という論文にまとめており、印刷の準備中である。 研究期間全体を通して、現代の価値観が多様化した多文化社会において、市民性教育と道徳教育が果たしうる役割と、その限界および留意点を一定程度明らかにすることができた。役割としては、正義とケアの能力の育成や、正義とケアを含む様々な価値の間で対立が生じた(ように少なくとも見える)場合に自らのとるべき行動を判断する力の育成、現代の社会の(論争的で)公的な問題に関心を持ち公の場で議論・熟議する能力の育成などについて論じることができた。限界および留意点としては、論争的で公的な問題を授業で扱う際に、偏向とインドクトリネーションを避けるため、(1)法的枠組、(2)教師の専門性、(3)生徒自身に偏向を見抜く能力を身につけさせること、(4)映画『不都合な真実』のように問題のある部分の同定に高度な専門的知識が求められる場合には専門家の手助けを求めること、といった対応策が必要であると論じることができた。
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