研究課題/領域番号 |
23730732
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研究機関 | 東京学芸大学 |
研究代表者 |
下司 裕子 (北詰 裕子) 東京学芸大学, 教育学部, 講師 (30580336)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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キーワード | 教育思想史 / 教育哲学 / コメニウス / 書物 / 読書論 / ヨーロッパ / 17世紀 / ラテン語 |
研究概要 |
23年度の研究の目的は、コメニウス研究において十分に検討されてこなかった、コメニウスの読書論を明らかにすることにあった。というのも、近代教育学においてコメニウスは、それまでの暗記を中心とした書物中心の教育に対して、事物を中心にすえた感覚的・経験的な教育の端緒として位置づけられてきたからである。 しかしながら、コメニウスにとって事物の重視は、素朴に書物そのものの批判を意味するものではない。印刷技術の拡大に伴って量産される書物を読み、知を獲得することこそ、コメニウスの教育思想の中心的課題であった。 そのため、第一に、17世紀に生きたコメニウスの講演原稿である「書物についてDe Libris」を分析した。コメニウスが推奨するのは書物の圧倒的多読であると同時に、「読むこと」とは読み手それぞれにとって必要な知を「選択し」さらに自分の書物を「書く」という一連の行為を意味するものであった。第二に、中世とルネサンスにおける読書論の位相をヨーロッパにおけるラテン語学習の文脈に照らしてその特長を明らかにした。第三に、コメニウスの読書論が、中世とルネサンス、そして近代以降の読書論とどのような点において結び合うのかを明らかにした。コメニウスにとって「書物」を読むことは読み手自身にとって意味を持つ様々な知を獲得することに結びつきつつも、そこで「知」として把握される事柄は根源としての「神の三書Tres Liber Dei」に結びついていた。この観点こそ、コメニウスにおける読書論を成立させる文脈を形成すると同時に、コメニウスが重視した「事物」の意味を示す特徴的な点である。 そしてこの観点においてこそ、近代教育学の文脈において事物主義・感覚主義的教育の教材として高く評価されてきた、コメニウスの『世界図絵』等の教科書執筆の法則が読解可能となることを指摘した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
コメニウスの読書論を明らかにするという研究計画段階での目標は、完全に達成したといえる。このことによって、初期近代における教育と書物との関係性の一様相が明らかになったと同時に、コメニウス教育学の中核として据えられてきた事物主義に対する見直しがはかられたと考える。 すなわち、主に教育の方法的観点から、現代に至る近代教育教育の「祖」として位置づけられてきたコメニウスを17世紀的文脈の中に置き直すことによって、まさに教育という営みが人間にとっていかなるものとして捉えられ、意味づけられてきたのかという認識論的背景を明らかにするその一端を、23年度の研究では達成することができた。 23年度の研究は、24年度以降の研究計画に発展的に引き継がれることで、本研究課題である初期近代の知の再編とコメニウスの教育思想との連関を明らかにする基盤を提供するものである。 なお、23年度の研究成果は、「コメニウスにおける読書論の位相-中世/ルネサンス/近代-」として、森田伸子編『教育と言語をめぐる思想史』勁草書房(2012年9月刊行予定)に収録が決定している。
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今後の研究の推進方策 |
今後の研究の推進方策としては、主に以下の二点が挙げられる。第一に、23年度に引き続き、コメニウスに関する文献を調査するため、国内外の図書館や古文書館にて資料の調査を行う。第二に、研究計画書では、25年度の目標として掲げている学位論文の執筆を、本年度の研究と同時にすすめていくことである。
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次年度の研究費の使用計画 |
次年度の研究費の使用計画としては、主に以下の二点が挙げられる。第一に、23年度に引き続き、コメニウスに関する文献を調査するため、国内外の図書館や古文書館にて資料の調査を行うための、旅費や資料の入手に使用する。第二に、研究を行うに当たって必要な物品等(パソコンのソフトや、文具類、プリンタ関連のソフト等)のために使用する。
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