研究課題/領域番号 |
23730732
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研究機関 | 東京学芸大学 |
研究代表者 |
下司 裕子(北詰裕子) 東京学芸大学, 教育学部, 講師 (30580336)
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キーワード | 教育思想史 / コメニウス / 17世紀 / 書物 / 言語観 / 世界観 / 教科書 |
研究概要 |
本年度は、最終年度に予定されていた博士論文提出の目標を達成した。「J.A.コメニウスの世界観と言語観に関する教育思想史研究―17世紀における事物・言葉。書物―」を日本女子大学に博士論文として提出し、受理・審査ののち、博士の学位を与えられた(乙第58号)。博士論文では、近代教育学の祖と位置づけられてきたコメニウスの教育思想には、世界の存在そのものと言語が分かち難く結びついていた古代・中世以来の存在論と、近代以降の有限な人間の認識論とが混在していたことを明らかにした。 その際、本研究のテーマである初期近代の知の再編を、当時最大のメディアであった「書物」を軸に再考した。コメニウスの教育思想の根幹には、神が創造したこの世界そのものを神の「書物」と捉える世界観と、その神の書物(=世界)から多くを学び続けて生きている「人間」という設定、そして、神が記した書物を読むために、人間が人間のために書き続け/直していく人間の手による書物、という根源的な書物論がある。近代教育において高く評価されてきた『世界図絵』等のコメニウスの教科書は、こうした初期近代の認識論的枠組みを前提に、増え続ける書物と知をどのように取捨選択し、再構成し、伝えるのかという問題に対応するものであった。 その他に、初期近代の知の再編に関わる歴史的位相の研究成果の一部を、森田伸子編『言語と教育をめぐる思想史』(勁草書房、2013年1月)の「第一章コメニウスにおける読書論の諸様相-中世・ルネサンス・近代-」として執筆した(51頁~95頁)。さらに、コメニウスの教科書論にかんする研究成果の一部を、森田尚人編『教育思想史で読む現代教育』(勁草書房、2013年3月)の「第9章 教科書-コメニウス『汎教育』における書物一般と学校用書物」として執筆した(176頁~201頁)。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
本研究は、当初の計画以上に進展していると評価できる。というのも、研究計画時には3年目(最終年度)の課題として位置づけた、それまでの研究成果をとりまとめ博士論文を執筆するという目標を達成したからである(「J.A.コメニウスの世界観と言語観に関する教育思想史研究―17世紀における事物・言葉。書物―」日本女子大学 乙第58号)。 当初の研究計画では、本研究で使用するコメニウスのテクスト類(『光の道Via Lucis』、『事物の扉 Janua rerum reserata』、『遊戯学校Schola ludus』、『汎教育Pampaedia』等々)は、すべてラテン語で書かれたものであるがゆえに、まずはラテン語原典の読解と解釈という基礎的作業に多大の時間を有すると見込んでいた。そのため、研究計画に述べた内容を吟味するために3年の計画を立てた。 しかしながら、研究を進めるにあたってこの1年間、可能な限り時間を確保し、ラテン語原典の翻訳・読解をコンスタントに進めることで、当初の計画以上に原典の読解が進んだと考えられる。 また、科研費は年度をまたいで使用可能であるという利点を生かし、基礎作業でありもっとも時間のかかる読解の進度を優先し、当初予定していた海外への資料収集等を次年度に延期することを決めたことで、より一層研究に集中でき、計画以上に進展に繋がったと考えられる。
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今後の研究の推進方策 |
本研究において当初予定していた研究成果はおおむね達成されている。残るのは、これまでの研究成果の国内外における公表である。 そのため、第一に、国内の教育思想史学会(9月)にて、研究成果の一部を発表する。ここでは、主に『光の道』に関する分析を中心に論じる。 第二に、オランダのナールデンで開催される国際コメニウス学会(10月)で、研究成果の一部を発表する。ここでは、初期近代の知の再編からみたコメニウスの教育構想と世界の表象に関して、書物論を軸に発表する。 第三に、本研究を広く世に開いていくために、出版の準備を行うことを目標に進める。 そのために、出版助成の申請を行うとともに、研究の見直しとまとめ直しを行う。
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次年度の研究費の使用計画 |
研究費の使用計画は、大きく以下の3つに分けられる。 第一に、国内外の学会で発表するための準備に必要となる、書籍類、文房具類、パソコンのフロッピー等の物品費と通信費である。 第二に、国内学会と国際学会、また、本研究に関連する諸学会や研究会等に参加するための旅費である。 第三に、出版準備のために必要となる、書籍類、文房具類、パソコン関係の物品費と通信費である。
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