研究課題/領域番号 |
23730734
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研究機関 | 上越教育大学 |
研究代表者 |
末松 裕基 上越教育大学, 学校教育研究科(研究院), 講師 (10451692)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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キーワード | イギリス / 学校経営 / 学校自律化政策 / アイロニック・アプローチ |
研究概要 |
本研究は、1980年代以降のイギリスにおいて、学校に裁量・権限を持たせ自律性を期待する学校自律化政策の展開と特徴を考察し、学校現場へのインパクトを検証することを目的としている。とりわけ、政策の学校へのインパクトと帰結の検証が必要であるとの問題意識に立ち、政策が学校でどのように受け止められ、何が起きているのかを捉えようとするものである。 1980年代以降のイギリスの学校自律化政策の展開と課題を考察した。1980年代以降の学校自律化政策は大きく四点が試みられていた。(1)経営の現場主義政策(LMS)による財政的、経営的権限の地方レベルから個別学校への移譲、(2)保護者の学校選択の自由化、(3)学校タイプの多様化、(4)教育目標・内容や評価に関する中央政府の権限の強化。これらに関する資料を収集・分析するとともに、NCSLを中心とした研修プログラムや全国校長職専門資格、各職務基準の考察を行った。そこから学校経営上、教職員に期待されている職務内容や役割と政策の背景にある政治改革原理を分析した。 また、政策下における教職員の教育活動展開上の現実感覚を捉えるための理論的検討を行った。教育組織と改革手法のミスマッチについて分析し、改革の問題として、教育組織に固有の原理や、学校に対する政策導入の難しさに対する無理解を指摘した。予定調和で合理的な仕組みによる改革が、教育のプロセスと結果に渡る画一性を求めることにより、教育組織から固有の曖昧さを奪っていることや、その結果、個々の学校は、外的に着手された政策を要求されたまま採用せざるを得ない構造があることを分析した。これら学校に対する改革の仕組みと改革の予期せぬ結果について、「政策パトス」の状況について考察した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究では、イギリスを事例として、教職員の教育活動展開上の現実感覚に注目して、学校自律化政策の学校へのインパクトの検証を課題としている。その際、政策の特徴を分析するにとどまらず、その背景にある政治改革原理を考察するとともに、政策が意図しない結果を招いていることと、それを生み出す仕組みを分析する。また、政策の表面的意図に関わる資料収集を行うだけでなく、その詳細な分析に向けた理論的検討をまず行う。その上で、それらの視点をもとに、学校現場でどのように改革が受け止められ、改革下の難しい構造にある中で、なぜ、教員が働けているのか。またそこで彼らが何をしようとしているか。矛盾した構造にどう立ち向かっているかについて、現地に赴きインタビュー調査を行うことで捉えることで政策の課題を検証していく予定である。平成23年度は、特に(1)1980年代以降のイギリスにおける学校自律化政策の展開と課題の考察と、(2)政策下における教職員の教育活動展開上の現実感覚を捉えるための理論的検討を予定通り順調に行った。
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今後の研究の推進方策 |
平成24年度は、政策下における教職員の教育活動展開上の現実感覚を捉えるための理論的検討を行う。その際、学校自律化政策分析への「皮肉」の視点を導入し、なぜ教員が改革下で働けているのか。Hoyleらが提唱する「皮肉」の視点を援用し、多くの教職員が、改革を全面的に否定している訳ではないこと。生徒のニーズに見合うように、政策を媒介しようと試みている可能性を考察していく。ここから、教職員が実際は改革下でいかに仕事にアプローチしているかを捉えるための指標を得ていく。また、政策に対する学校現場の認識と改革の帰結についての調査による検証を行う。学校自律化政策の意図せざる状況についてのデータ収集を行う。
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次年度の研究費の使用計画 |
本研究は、イギリスにおける政策分析から実際の学校現場の活動までの考察を必要とする性質上、研究資料費、現地資料収集費、訪問調査費、調査用機器並びに消耗品費・作業費等が欠かせない。更に研究課題遂行上、研究資料に関しては、膨大な書籍購入、政府文書購入が必要となる。また、これら研究を行う上での国内学会における情報収集、日本教育経営学会、日本教育行政学会での研究成果発表等の経費も必要とされる。尚、イギリスで開催される関係学会で情報収集を行うとともに、イギリス教育経営学会での研究成果発表を行うことを予定している。
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