研究課題/領域番号 |
23730740
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研究機関 | 静岡大学 |
研究代表者 |
松尾 由希子 静岡大学, 大学教育センター, 講師 (30580732)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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キーワード | 近世教育史 / 近代教育史 / 職業転換 / 学習環境 / 学問 |
研究概要 |
本研究は、近世において村役人などを勤めた地域の指導者層の人物を対象事例とし、近世までに習得した学問が、近代に入ってからの職業転換などその後の生き方に及ぼした影響について検討するものである。【内容】1 平成23年度は、遠江国(現静岡県浜松市)で神職を襲職した中村家の当主東海を事例にとりあげた。東海は、神職を襲職してきた家の出身であり、幕末から明治初年にかけて神職内藤家に養子入りし、その後中村家の当主となった。東海が蒐集した書籍の内容により、幕末から明治初年という移行期において、東海が特に国学を熱心に学んだことがわかった。近世の遠江国では、国学を学ぶ神職が多数存在した。このような地域の学問状況を背景に、東海の国学習得があった。東海の学問習得をささえた学習環境(人的ネットワーク)として、(1)養子入りによって広がった人脈(2)三河国の国学者(神職)があげられる。このネットワークの中で、学問に必要不可欠である書籍の貸借も行なわれていた。近世において機能していた養子制度や支配関係(当該地域は、三河国吉田藩の支配を受ける)が、学習環境に大きく影響していた。近代に入り、東海は教導取締や学務委員等を命じられ、郵便局取締役にもついた。近世までに神職や村役人を勤めてきた家の出身者が就くことが多い職(職務)であり、東海の場合も近世までに学んだ学問や教養が近代においてもいかされることになった。2 平成25年度の研究課題である「近代初期の教員の資質能力」について、先行研究を検討し、残された課題と研究方法を提示した。【意義、重要性等】 本研究の意義は、近世近代を貫く視点で行なう実証的な研究にある。平成23年度に行なった研究もこの視点に基づいている。【内容】2で指摘したように、習得した学問の内容だけでなく、学習をとりまく要素(地域の特徴や人的ネットワーク、社会構造の在り方等)も考慮して、研究を進めた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
研究計画段階で予定していなかった学内業務が入り、本研究のエフォートが下がった。そのため、予定していた資料調査及び分析が十分にできたとはいえない。ただし、平成23年度より前から資料の一部を収集していたため、大きな遅れにはならず、計画段階で投稿を予定していなかった2本の論文を執筆することができた。
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今後の研究の推進方策 |
【平成23年度の研究課題の発表及び補完】 平成23年度に行なった研究成果については、2度の研究会発表で出席者から得た意見や助言も参考にして、所属する学会で発表予定である。一方で、十分に検討できなかった課題の一部である「近代以降に新しく習得した学問と職務」との関連について、さらに分析を進める。【平成24年度の研究課題の遂行】 事例対象は、福岡県大野城市高原家の家人である。必要とする資料の一部はすでに収集しており、次年度も計画通り行なう。
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次年度の研究費の使用計画 |
【資料調査】 次年度の事例対象である高原家に関わる資料を収集するため、高原家文書が所蔵されている福岡県立図書館を中心に15日程度の調査を行なう。また、平成23年度の研究課題の補完のために浜松市博物館で資料の閲覧や資料撮影を行なう。平成25年度の研究準備として、事例対象地域である群馬県での調査も並行して行なう予定である。多くの資料を撮影するため、収集した資料の整理や翻刻補助に関わる雇用を必要とする。平成23年度は、【現在までの達成度】で述べた理由により、予定していた資料調査及び分析が十分にできなかったために、研究費を繰り越した。繰り越した研究費については、次年度において、主に資料調査(静岡県浜松市、福岡県、群馬県)に関わる旅費や分析をする際に必要となる雇用として使用する予定である。【研究成果の発表】 研究成果を発表するために、学会や研究会に参加する。また、研究成果を論文として投稿するため、論文執筆にあたり研究課題に関わる書籍や論文(複写)を必要とする。
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