研究課題/領域番号 |
23730742
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研究機関 | 名古屋工業大学 |
研究代表者 |
上原 直人 名古屋工業大学, 工学(系)研究科(研究院), 准教授 (20402646)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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キーワード | 社会教育 / 公民教育 / 政治教育 / 青年教育 / 選挙啓発 / 市民教育 |
研究概要 |
本研究の目的は、戦後初期社会教育の基底に存在した公民教育論の特質を、主に思想史の観点から考察することを通じて明らかにすることである。公民館構想の提唱者である寺中作雄の公民教育論を中心に、これまで数人の論者に着目してきたが、平成23年度は、戦前における青年団指導者として知られる田澤義鋪とも深く親交があり、「次郎物語」の作者としても知られる下村湖人に着目し、その教育思想及び実践の検討を行った。その特徴は主に次の二点からまとめられる。 第一が、生命生長の原理にそくして、郷土社会における協同生活を通じて、自律性と創造性をもった人間を育成するという教育観に基づき、青年団講習所と煙仲間運動の実践を展開していった点である。当時広がりをみせていた多くの塾風教育に対する批判に始まり、自ら理想とする塾風教育のあり方を提唱し、それは青年団講習所における教育で具体化される。しかし軍国主義が台頭する中、講習所の閉鎖が余儀なくされると、煙仲間運動を提唱し、自身の教育の理想を何とか継承して実現しようとしたのであり、戦時下の厳しい情勢の中で、下村が自身の信念を何とか貫こうとした姿が伝わってくる。 第二が、地域社会における生活者にねざした「公民」の形成を目指した点である。下村は、直接「公民」、「公民教育」という言葉はほとんど使用していないが、よき社会人、よき自治体民、よき立憲国民の養成のために、講壇的、知識的教養だけでなく、団体生活・共同生活を通じた実践的訓練を施すことで、人間形成を図ろうとしたのであり、まさに、地域社会における生活者にねざした「公民」を、教育実践を通じて、よりリアルなものとして創出していこうとしたといえる。当時、講壇的な立場から公民教育を説く論者が多かった中にあって、田澤義鋪と同様に稀有な存在といえる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
これまでの研究蓄積もふまえ、平成23年度は、計画の中心にすえていた下村湖人について、その資料収集及び分析を、ある程度進めることができた。したがって、研究目的の達成にむけて、おおむね順調に進展しているといえる。
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今後の研究の推進方策 |
本研究課題を、今後推進していく上では、次の三つのプロセスが重要となる。第一が、下村湖人についてさらに掘り下げて検討していくことである。資料のさらなる発掘を通じて、青年団講習所や煙仲間運動の実践の実像にせまり、戦時下の下村の教育思想及び実践についての考察を深めるとともに、戦後の下村の教育観及び実践を分析することを通じて、戦前から戦後を通した総合的な検証を行っていく予定である。 第二が、下村をはじめとした戦前リベラリストたちの思想形成過程の背後にある構造について、国体論と日本的民主主義の考え方、選挙粛正運動と公民教育論の関係、日本の公民教育論の形成に影響を与えたとされるドイツのケルシェンシュタイナーの公民教育論等について検討することである。 そして、第三が、これまでの思想史分析や構造分析もふまえた上での総合的な検討を行うことである。具体的には、その類似性が指摘される田澤義鋪と下村湖人の相違点や、同じリベラルな立場においても、団体生活・共同生活を通じた実践的訓練を重視した田澤、下村と、講壇的な立場であった関口泰、前田多門らの相違点、さらには彼ら全員を取り巻いてきた歴史構造及び時代的な思想観を浮き彫りにしてはじめて、戦後初期社会教育の基底に存在した公民教育論の実像にせまっていけるものと思われる。
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次年度の研究費の使用計画 |
下村湖人のさらなる検討を行っていく上で、資料収集のための旅費が、次年度もある程度必要となる。また、ドイツの公民教育論との関係を分析する上で、ドイツ調査も実施する予定で、ある程度まとまった旅費が必要となる。さらには、古い資料の印刷及び製本代、関連図書の購入費、研究成果を発表するための学会参加のための旅費も必要である。
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