本年度は、昨年度までに入力した高等商業学校(小樽・神戸・大阪・山口・長崎)の入学者と卒業者データに加えて、甲種商業学校の全国の配置状況と卒業生情報(前掲5都市の甲種商業学校)を収集した。甲種商業学校の卒業生データは、高等商業学校のデータと同様にエクセルに入力した。そのうえで、高等商業学校との接続状況を検証した。 その結果、これまで中央政府による産業政策と全国的な学校設置状をもって説明されてきた進学者の動向とは異なる説明が必要であることがわかった。それは、甲種商業学校の設置が旧制中学校のような府県内の配置バランスや政治力学の影響を受けずに市町村レベルで設置できたことと、学校設立時の費用負担の在り方として地域住民の支持が強く、その支持の程度は地域社会の産業構造と教育経験の影響を強く受けていたことである。 これまで研究代表者は、初等教育機関での「教育費の集約経路」を検証してきたが、甲種商業学校と高等商業学校の関係は、「教育費の集約経路」に加えて地域住民の教育経験の蓄積で成立する「進学経路」をもって説明可能である。それは、いずれ高等商業学校卒業者として経済活動を営むことになる青年にとっての商業教育機関へのまなざしが、都市の産業構造だけでなく、初等教育段階から高等教育段階までを貫く学校への地域住民としての関与の在り方で決定づけられるものであることを示している。これは、経済社会次元からの教育機関への資源と人の集約程度を見極めることであり、少子高齢化が進む我が国の商業系教育機関の設置の在り方を考える際に有効な枠組みを示している。
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