研究計画の2年目となる平成24年度は、教員団体および保護者団体を主な調査対象とした。前年度の行政・塾団体に対する調査・研究結果と合わせて分析を行ない、私教育政策のアクター間の葛藤や妥協あるいは協力といった側面が浮き彫りにした。そして、これま での調査・研究結果を総合し、博士論文(韓国における「私教育」政策に関する研究、九州大学)にまとめた。 具体的な成果は以下の通り。(1)韓国における私教育問題は国家が介入せざるを得ないほど大きな問題となっており、解決への政府の積極的な態度は国民からの一定の支持を得られる。(2)私教育政策は、私教育問題に対する政策対象領域と公-私教育の境界が微妙なズレをともないながら時代により変容してきた。その帰結として、「放課後学校」という新たな私教育政策を打ち出すに至った。(3)私教育政策は、低所得者層をはじめとする教育を受ける機会に恵まれなかった層に対する「教育福祉」の実現という目的を持つようになった。(4)私教育政策の目的化は、改革の検証という視点を弱め、また明確な意図を見いだせないまま新制度を導入することを促す。この連鎖こそ、私教育政策が続けられるメカニズムである。(5)韓国の私教育政策過程に見られた特徴として、第一、大統領と教育部を中心に政策が形成されるとともに、時期によってアクターは異なる、第二、政策過程における教員団体、学父母団体、市民団体の役割と影響力が拡大している傾向にある、第三、政策形成を研究領域に任せることで主務部署への批判を避けている可能性があることが明らかになった。
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