研究課題/領域番号 |
23730754
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研究機関 | 慶應義塾大学 |
研究代表者 |
岩下 誠 慶應義塾大学, 教職課程センター, 助教 (10598105)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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キーワード | アイルランド教育史 / 公教育 / イギリス教育史 / 比較教育史 / 国民学校制度 |
研究概要 |
史料資料蒐集および検討状況:一次史料に関しては、9月にアイルランド・ダブリンでの第一次史料調査を実施、とりわけChurch of Ireland College of Educationの司書の方と面談し、次年度以降の内部資料の閲覧および複写への同意を取り付けたほか、デジタル史料を中心に蒐集を進めた。二次史料・資料に関してはアイルランド教育史研究を中心に幅広く蒐集と読解を進めた。研究成果の公開:当該年度に行ったアイルランド教育史研究のオーバーヴューとイングランドとの比較研究の成果は、5月に提出した博士論文の序章および最終章の一部を構成したほか、当該年度に行った3回の学会・研究会報告(日英教育学会、教育史学会、比較教育社会史研究会)の口頭報告の内容を構成している。この報告のうちの二本は既に次年度以降、論文および著書の一章として文字化し公刊されることが決定しており、すでに一本は脱稿した。残りのひとつに関しては、現在雑誌投稿後の審査を経て、修正の後再投稿済み、現在審査中である。意義・重要性:当該年度の研究成果はアイルランド公教育史、とりわけ国民学校制度に関するレヴューであり、国民学校制度が教育史上に持つ意義の検討である。その内容は、イングランドに先行して整備されたアイルランド公教育制度という、アイルランド公教育の「先進性」という従来の解釈を修正し、国家・教会・任意団体という三者の関係性において公教育制度のあり方の差異を説明する比較史的な視座を構築したものである。これはこれまで手薄であったアイルランド公教育史の学説史的レヴューを行うと同時に、「経済的に後進的な地域で公教育制度が早期に整備される場合があるのはなぜか」というこれまでの教育史上の問いに対する部分的な解答を提示したという点で、一国史に留まらない比較教育史的な意義を持つものと考える。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当該年度の目的は、(1)アイルランド公教育史に関する文献の幅広い蒐集および読解、またその作業を通じたレヴュー論文の執筆と、(2)アイルランドにある各種アーカイヴズの予備的調査であった。(1)に関しては、関連する最重要文献は論文・著作ともほぼ蒐集・読解を終了し、3回の学会・研究会報告および2本の論文執筆(博士論文の序論と終章を入れれば3本の論文執筆)を行うことができた。(2)に関しては、ダブリンの主要なアーカイヴズはほぼ訪問を終えることができ、予備的な調査を済ますことができた。さらに、本研究にとって最重要アーカイヴズであるChurch of Ireland College of Educationの司書でありアーキヴィストでもあるValerie Coghlan氏と面会の機会を得、次年度以降、未公開の内部史料の閲覧に関する内諾をいただくことができた。また、イギリス議会史料に関しては、所属する慶應義塾大学の電子化アーカイヴズを使用し、効率的に蒐集を行うことができた。以上から、当該年度の研究は、当初立てた計画に照らしておおむね順調に進展していると言える。
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今後の研究の推進方策 |
今後の研究の推進方策は以下のとおりである。(1)文献史料のリストアップと蒐集・読解の継続:アイルランド公教育史研究の最重要著作・論文はほぼ蒐集を終えたが、今後はこれから公刊される最新の研究成果を注意深くフォローするとともに、より比較史的な枠組みを持った研究へと蒐集・読解対象を拡大する。(2)史料調査:国内で入手可能な史料の蒐集を継続するほか、当該年度の予備調査の結果を踏まえて、24年度には調査が不十分もしくは再調査が必要と判断したアーカイヴズを中心に再調査を行う。Church of Ireland College of Educationが所蔵するキルデア・プレイス協会の内部史料が主要な再調査の対象となるが、ほか19世紀前半のカトリック司祭関係文書を所蔵しているDublin Diocesan Archivesや、イギリス国教会系の史料を所蔵しているRepresentive Church Body Libraryなど、地方文書館に史料調査範囲を拡大して調査を行う。(3)研究成果の公開について:現在掲載が決定している論文、および修正要求を踏まえて再投稿している論文を公開していくほか、24年度においても、複数の学会および研究会での口頭発表および論文執筆と投稿を予定している。また、24年度には編集および執筆する書籍の一章として研究成果を公開する予定である。25年度にはHistory of Education Societyでの報告を予定するほか、報告書の作成と、書籍化による研究成果の社会への還元という方策を探っていく。
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次年度の研究費の使用計画 |
次年度の研究費の使用計画は以下のとおりである。(1)物品費については、大部分が継続する文献蒐集費に当てられる。(2)旅費については、次年度の重要な目的がChurch of Ireland College of Educationの内部史料の調査および閲覧であることから、大部分を海外旅費に当てる。残りの国内旅費は、各種学会や研究会への参加のために使用される。(3)人件費に関しては、調査研究協力依頼(英文校閲を含む)のほか、必要と判断した研究会における報告のテープ起こし等に用いられる。(4)その他に関しては、通信費と印刷費に使用される。とりわけ当該年度に執筆・登校した論文が公開された際には、その抜き刷りの複写および郵送に使用される。
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