研究課題/領域番号 |
23730754
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研究機関 | 慶應義塾大学 |
研究代表者 |
岩下 誠 慶應義塾大学, 教職課程センター, 助教 (10598105)
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キーワード | アイルランド / 公教育 / 教育史 |
研究概要 |
当該年度に実施した研究の成果は、以下のとおりである。 1.資料・史料調査:前年度から継続しているアイルランド教育史関連の文献の蒐集と読解を進めた。また、夏季にダブリンの国立公文書館とThe Church of Ireland College of Education(CICE) のライブラリーで追加の史料調査を行った。CICEの内部文書は今回閲覧できなかったが、交渉の結果、次年度以降閲覧可能との約束をいただいた。キルデア・プレイス協会(KPS)の議事録等の内部文書を閲覧することができるようになったことは、本研究にとって極めて重要な成果であった。 2.論文その他:アイルランド公教育史のレヴュー論文を『教育学研究』第79巻3号に発表した。また、2013年公刊予定の比較教育社会史叢書シリーズに論文を寄稿した(アイルランドを含むイギリス公教育と福祉国家との関係を論じたもの)。『教育学研究』の論文は、これまで日本ではほぼ皆無であった領域のレヴューであり、学術的価値がある。また、本研究の理論的な枠組みを示したことも重要である。 3.学会発表その他:「「教育「支援」とその「排除性」に関する比較史研究」研究会にて、報告を行った。中核地域と従属地域という関係から子ども史を読み解く視点は、本研究の理論枠組みにも関連する。 4.研究者との交流:CICEの理事であり、アイルランド教育史研究者としても非常に著名なSusan M. Parkes名誉教授とコネクションを構築した。また、バーミンガム大学のマルコム・ディック博士と面談し、前年度から引き続いて研究上のアドバイスを受けた。国内では比較教育社会史研究会の事務局を担って広く教育史研究者と交流を深めた。とりわけParkes教授とのコネクションは、今後の研究の進展にとって大きな意義がある。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
研究の目的として、アイルランド教育史を比較教育史の理論的な枠組みに位置づけることと、アイルランド公教育の成立に関する実証的な研究を進めることのふたつを設定した。前者に関しては概ね順調に進展しているが、後者に関しては若干の遅れが認められる。 前者に関しては、2012年3月に『日英教育フォーラム』に掲載されたイギリス公教育史とヴォランタリズムとの関係を考察した論考と、アイルランド公教育史をレヴューした『教育学研究』論文がすでに公表されている。また、2013年度に公刊が予定されている書籍でも、広くイギリス史という観点からアイルランドの事例を位置づけることを試みており、当初の予定よりも進んでいる部分もある。もっとも、本来は研究初年度に公表すべきであったレヴュー論文が、審査と修正に予想以上の時間がかかり、研究二年目の半ばをすぎるまで公表できなかったことは遺憾であった。 後者の実証研究の部分に関しては、CICEのライブラリアンとの行き違いによって、KPS内部文書閲覧のために理事会の承認が必要ということを現地に行ってから説明を受けたため、本来今年度に閲覧しておくべき内部史料の閲覧と蒐集が最終年度にまわさざるを得ないことになってしまった。この結果、現在において必ずしも予定していたペースで研究が進んでいるとは言えない状況にある。ただし、2012年度の第二次史料調査によって、史料蒐集がほぼ終了した「悪徳撲滅協会(APCK)」に関しては、現在史料の整理と読解を進めている。ただし、当該年度ではまだ学会や研究会等の口頭報告が可能になるレベルまでは研究が進展していない。次年度の半ばあたりまでには読解を終え、学会・研究会等における口頭発表および論文執筆が可能なレベルまで研究を進展させるつもりである。
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今後の研究の推進方策 |
今後の研究の進め方については、予定を以下の点で変更した上で推進する。 1.第三次史料調査:CICEが所蔵するKPS内部文書閲覧が二年目では不可であったが、今後閲覧許可が得られるため、予定にはなかったが最終年度である2013年度に、ダブリンへ渡航し、CICEのプライベート・アーカイヴズを中心に第三次史料調査を行う。同時に、Parkes名誉教授から研究上のアドヴァイスを受ける。 2.学会発表および論文執筆:当初はKPSとAPCKを含めた任意主義と政府との関係に関する学会発表および論文執筆を行う予定であったが、上記の理由からKPSに関する史料の一部が閲覧・蒐集できていないため、史料蒐集がほぼ終了しているAPCKに関する研究成果を先にまとめ、国内外いずれかの学会で発表する。並行してAPCKに関するモノグラフの執筆を優先し、完成次第国内外のいずれかのジャーナルに投稿する。 3.研究成果報告書:研究計画の変更にともなう旅費・調査費が予定より増えることと、これまで蓄積してきた研究成果のほとんどが学会誌に論文として公表されている(『日英教育フォーラム』および『教育学研究』に掲載済み)か、あるいは学術図書として公刊される予定である(2013年度に申請者みずからが共編者をつとめ、市販本として出版される予定である、比較教育社会史研究会叢書に、申請者の論文が複数本掲載される予定である)ことを踏まえ、予定していた研究成果報告書の製本・送付は場合によっては見直し、簡略化するか、あるいは電子ファイル化して公開する。
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次年度の研究費の使用計画 |
次年度の研究費のしよう計画は以下のとおりである。 1.物品費:大部分が、蒐集を終えていない文献および新刊の関連書籍の購入に使用される。 2.旅費:上記の変更に伴い、当初の学会発表の予定に加えて、第三次史料調査およびParkes名誉教授との面会のための海外旅費へと大部分が当てられる。残金は国内での学会・研究会参加のために使用される。 3.人件費:調査研究依頼(英文校閲含む)のほか、必要と判断した報告のテープ起こし等に使用される。 4.その他:主として通信費と郵送費に使用される。ただし、上記の研究計画の変更に伴い、研究成果報告書の印刷および郵送費を電子ファイル化による公開等によって節約し、余剰金を海外渡航費に振り向ける。 2012年度には、研究に関する助言および部分的な英文校閲をしていただいたマルコム・ディック博士が謝金を固辞されたことにより、人件費・謝金の計上が0円となり、12,019円の繰越金が生じた。この繰越金は、2013年度、第三次史料調査のための海外渡航費の一部として使用する。
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