研究課題/領域番号 |
23730756
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研究機関 | 大阪市立大学 |
研究代表者 |
渡邊 席子 大阪市立大学, 大学教育研究センター, 准教授 (60320579)
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キーワード | コンピュータ・シミュレーション / 教育 / 評価 |
研究概要 |
本研究は、大学を取り巻く環境が急激に変化していく中で、教育成果のエビデンスを分かりやすい形で求められることに困惑しときに過剰適応する大学と、エビデンスベース評価を行う側の能力的信頼性と妥当性の不確かさが相乗することによって生じる教育評価の「影」の部分に向き合うことを通じて、エビデンスベース評価が真に意味をもち、よりよい教育が維持・促進された状態とはいかなるものなのか、その全体像を探ることを目的とした探索的コンピュータ・シミュレーション研究である。 研究期間内で明らかにすべきは、意義あるエビデンスベース評価が運用されている状態がもしも存在するのならば、そのとき大学の構成員(学生・教職員等)はどのような状態にあり、大学を取り巻く環境はどのような様相を呈しているのかである。この問題にアプローチするため、本研究は、仮想世界における組織・個人間の相互作用と創発性を扱うことを可能とするコンピューター・シミュレーションモデル「多重地理的移動性モデル」を構築し、教育の評価の在り方を問おうとしている。 平成24年度は、評価される側(大学)と評価する側(外部評価者)のみを想定し、評価される(評価する)側面を1点に絞って作成した平成23年度版基礎プログラムに、(1)平成23年度版の時点では1点のみであった評価される(する)側面を4点に拡張するとともに、成果エビデンスの示しやすさに差異を設けた(就職率や退学率など集計した数値を見せることによって比較的容易にエビデンスを示せるもののみならず、学生の学修成果や学位の質など第三者に対して客観的に提示するのが難しいことも想定)。また、(2)概念座標を導入することにより、グローバル化・ユニバーサル化の影響を考察する準備を整え、本研究の基幹プログラムを作成した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
申請当初の予定において、平成24年度は、①平成23年度から引き続き過去の研究にて構築済みのプログラムパーツをサルベージし、あわせて新しいパーツを作成しつつ、それらを組み合わせて多重地理的移動性モデルを導入した基幹プログラムを構築し、完成したプログラムのデバッグを行うこと、②各種社会環境条件設定下(教育に関する評価や教育面での競争的資金獲得の機会、18歳人口の減少、税収の減少、卒業後の出口たる就職口の減少、教育のグローバル化・ユニバーサル化など、大学だけで解決することの難しい多様な状況)におけるデータの収集・分析・考察を行うこととなっていた。 ①については、概念座標と多様な評価軸の2点を新たに導入し、あわせて、グローバル化・ユニバーサル化の影響を考察することを念頭に置いた多重地理的移動性モデルとして機能しうる基幹プログラムを完成させ、デバッグを進めた。②については、グローバル化・ユニバーサル化が進む環境下においては、複数設定した評価軸すべてについて実力ある大学がより生き残りやすくなり、実力の低い大学は淘汰される可能性が示唆された。この結果は、平成23年度版基礎プログラムによって出力された結果とも一貫している。なお、グローバル化・ユニバーサル化の概念を適切にコンピュータ・シミュレーションプログラム化することについてはまだ改良の余地が残っているため、基幹プログラムのデバッグと同時進行で複数のプログラムパーツの作成を開始した。また、23年度から24年度の研究成果を論文にまとめ24年度内に公開し、さらに、24年度の学内FD活動においても2回公表の機会を持った。 以上より、平成24年度の研究はおおむね順調に進展していると判断する。
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今後の研究の推進方策 |
平成25年度は、次の4点を中心に研究を進め、成果をまとめる。 ①グローバル化・ユニバーサル化のプログラムパーツの妥当性検証:グローバル化・ユニバーサル化とは、既存の国家・組織の敷居が低くなり、人や知識等の流動性が高まった状況であり、大学を取り巻く環境要因の中でもっとも高次に位置するもののひとつと考えられる。「11 現在までの達成度」に記したように、現時点では検討の余地が残っているため、プログラムパーツをより妥当な形へと発展させる。 ②評価にかかるコストの増大による大学の消耗についての議論:平成23年度版基礎プログラムでは、エビデンスベース評価を行うことによって大学の教育的実力が高まる、すなわち、すぐれた大学が生き残る可能性がある半面、評価対策のために費やすコストが大きな負担となり、大学自体の「体力」もまた消耗する可能性があわせて示唆されている。この問題についてより詳しく分析・考察するために、次に挙げる③の手立てを早急に整える。 ③最終報告に向けてのデータ出力形状の検討:評価軸を複数設定し、概念座標を導入したことによって、分析対象としうるデータが飛躍的に増えた半面、現在の基幹プログラムによって出力されるデータの形状はかなり複雑化している。そこで、大学内で何が起こっているのか、各種ステークホルダーの評価能力と大学の実力とがどのような関係にあるのか、相互に向上できる関係は構築しうるのかについて考察を進めることを中心に、より分析しやすいよう出力形式の改定を進める。 ④研究成果報告書作成と成果の運用:平成23年度より進めてきた本研究について、25年度までの研究成果を報告書にまとめる。さらに、学内で進んでいる各種教育改革に際し、本研究の成果を積極的に反映させる。
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次年度の研究費の使用計画 |
該当なし。
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