研究概要 |
かな文字のうち、濁音文字や拗音表記といった特殊表記は,発達障害児が習得に困難をもつことが多く、一般的にも習得されるのが遅い。本研究は、特殊表記の習得機序の解明、習得支援策の開発を目的とした。 拗音表記は音の「混成」を表す表記である(たとえば,きゃ:ki+ya→kya)。拗音表記の習得支援法として、「音の合体」に気付かせる歌・リズム遊びを考案した。これは,たとえば,「に」と「や」が合成されると「にゃ」(猫の鳴き声)になるように,2つの音が合体するとあるものが現れるというものである。 福島県内の私立幼稚園の4-5歳児37名(実験群20人、統制群17人)を対象とし、上記の歌のプログラムの拗音表記の読み習得に対する効果を検証した。3ヵ月にわたって、上記の歌のプログラムを通常の保育の中で2日に一度程度、実施した。事前検査の結果は,拗音表記の読める個数は実験群が5.35個(SD=7.05)、統制群が1.0個(SD=3.56)であり,事後検査は実験群が7.80個(SD=7.96),統制群が2.12個(SD=5.15)だった。事後検査の正答個数を従属変数とした共分散分析を行ったが、両群間に有意差は検出されなかった(p>.10)。これは、実験群と統制群の間に、事前テストの段階から大きな差があったことによる。 濁音文字については、これらが規則の利用によって習得されているのか、機械的な対連合学習によって習得されているのかを検討した。ベストセラー絵本49冊から、平仮名71字の文字別頻度を計測し、3-4歳児の文字別の読みの正答率データの相関を分析したところ、清音文字の場合はr=.376(N=46, p<.05)と有意な相関が検出されたが、濁音の場合はr=.255(N=20, p.=.278)で有意ではなかった。このことから、濁音文字は、対連合ではなく規則の利用によって習得されていることが示唆される。
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