研究課題
本研究の目的は、戦後初期の日本の教員養成における一般教養に注目することを通じて、日本の教員養成が現在直面している課題に史的研究の立場から応えることである。具体的には、大学における教員養成が、政策的に期待されている「実践的指導力」の修得といかに関連するのかを原理的に問い直し、大学が教員養成に果たすべき固有の役割、大学が保障すべき教員の資質等を明らかにすることを目指している。そのために重要なのは、1949年度に発足した新制大学が各々展開してきた教員養成カリキュラムの実態、すなわち、理念において重視すべきとされた一般教養が各大学のカリキュラムにどのように位置づいてきたのか(こなかったのか)を明らかにすることである。 この目的のもと、平成23年度は主として千葉大学、金沢大学、秋田大学、富山大学の4大学を対象に、大学や県立図書館等が所蔵する史資料を収集・分析した。並行して国立公文書館・国立国会図書館等が所蔵する文部省関係資料や占領軍関係資料等の収集・分析も進めてきた。また、情報収集のため、日本教育史研究会、日本教育学会、教育史学会、教師教育学会等の研究大会やセミナーに参加した。これらを通じて明らかにできつつあるのは、一般教養と教科専門教育、さらに教員養成学部以外の学部(文理学部等)の専門教育の区分や関連性が曖昧で、従来の師範教育より一段も二段も高い大学レベルの教養教育や教科専門教育とは何か、それが教職専門教育とどのように関わるのか、教養・教科・教職という3種類の科目の関係性は小学校・中学校・高校のどの学校段階の教師にとってどのとうな点で共通し、どのような点で異なるのか等である。教員養成に対して行政が直接参入するなどして、大学における教員養成の意義が改めて問い直されている現在、本研究のように、大学における教員養成とは何かを原理的に問い直すことが極めて重要である。
2: おおむね順調に進展している
当初、平成23年度に調査を予定していたのは、(1)7つの大学の関係資料及び(2)占領軍関係資料であった。このうち、(1)については、史資料の特性とくに個人情報の問題から、計画を変更し、調査対象校を4大学に減らさざるを得なかった。ただし、減らした分を補完できるよう、予定にはなかった、全国の大学設置認可申請書及び教職課程認定申請書を国立国会図書館等から広く収集することにした。結果、想定していた以上の史料を新たに発掘することができている。(2)については、教員養成を担当した者だけでなく、教員が実際に働く場となる初等学校や中等学校、そして教員養成を担う大学全体について担った者たちも含めて、占領軍内の教員養成に対する多様な意見を浮き彫りにできるよう、調査を進めている。従来の研究ではごく一部の担当官のみ注目されてきた結果、ニューヨーク州やカリフォルニア州のモデルに注目が集まってきたが、日本の制度と二つの州のモデルとでは一致しない部分も多いため、占領軍がどのような制度ややカリキュラムを日本へ紹介したのか、それらを日本側がどのように受容して展開したのかを明らかにしていくためにも、本研究のような調査はきわめて重要である。 これらの成果を平成24年度から適宜公表できるよう、現在準備中であるため、本研究はおおむね順調に進展しているといえる。
(1)平成23年度に調査した4大学のうち、金沢大学及び富山大学の2校は平成24年度も調査を継続する。また、(2)全国の大学設置認可申請書、教職課程認定申請書、占領軍関係資料、文部省関係資料について、国立公文書館、国立国会図書館、国立教育政策研究所等を中心に調査を本格的に始める。とくに(2)は膨大であるため、平成25年度以降も引き続き調査を行う予定である。 これらの調査により、大学設置認可申請書、教職課程認定申請書、学生便覧、教授会や各種委員会等の会議録の収集及び分析を進め、適宜、口頭発表及び論文として公表していく。まずは平成24年度に口頭発表1件及び論文1本を公表できるよう、準備中である。なお、平成25年度には、本研究も含んで学位論文をまとめられるように準備を進めている。
直接経費800,000円を、設備備品費50,000円(デジタルカメラ)、消耗品費400,000円(書籍・史資料の収集)、国内旅費350,000円(調査・史資料収集200,000円、成果発表30,000円、学会等での情報収集・打ち合わせ120,000円)として使用する計画である。