研究課題/領域番号 |
23730768
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研究機関 | 日本大学 |
研究代表者 |
長嶺 宏作 日本大学, 国際関係学部, 助教 (30421150)
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キーワード | アメリカ / 教育学 / 教育財政 / アカウンタビリティ / スタンダード / 教育改革 / コミュニティ |
研究概要 |
本研究課題は「スタンダードに基づく改革」による①教育制度構造と②財政構造の変化を考察することにある。そのため平成23年度では、「連邦主義(federalism)」の理念の変遷を「初等中等教育法(Elementary and Secondary Education Act)」を通して考察した。 平成24年度ではオバマ政権下で成立した「頂点への競争(Race to the Top)」政策の分析を行うとともに、州に分析のレベルを移し、1989年に成立した「ケンタッキー州教育改革法(Kentucky Education Reform Act)」の事例を考察した。この考察の結果「スタンダードに基づく改革」が州による介入としてトップダウン型の改革だけでなく、ボトムアップ型の改革の側面もあることがわかった。さらに、ケンタッキー州では公選制の州教育委員会から、任免制の州教育委員会へとあわせて変化し、その目的は集権化というよりは政治的な任用から遠ざけるためであった。しかも、州が教育費全体の底上げを図り、専門職団体の支持や市民団体の支持などを受けて成立した包括的な教育政策であった。 こうした政策をつなぎあわせているのが、教育の結果を求め、その結果に応じて何らかの介入処置をとるという「ニューパブリックマネジメント(New Public Management)」の手法である。しかし、「ニューパブリックマネジメント」は、それ自身が特定の規範を持ちやすいが、必ずしも特定の制度理念と結びつくわけではなく、複数の政策を統合する枠組みを提供しているのに過ぎない。したがって、「ニューパブリックマネジメント」の枠組みは多様な制度理念の捉え方ができ、そのオルタナティブな政策選択のあり方の一つが明らかになった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成23年度では、連邦政府・州政府・地方学区の関係性について理論的に「初等中等教育法」を事例に考察してきた。アメリカにおける地方学区の多様性から、理論化できない部分もあるが、オバマ政権で展開されている「頂点への競争」政策からは「ニューパブリックマネジメント」の政策手法の特質が強く見られることが明らかになった。 平成24年度では、ケンタッキー州の調査研究からイギリスの政策モデルの影響が見られるなど教育改革におけるグローバルな展開の中で、あらためて教育におけるガバナンスが問題にされていることを再確認した。アメリカでは伝統的な連邦主義というガバナンスのモデルは維持しながらも、政策上は、教育の結果を求め、その評価をとおして一連の教育改革を行う政策や予算配分のあり方を一括裁量制へと変更するなどのガバナンスのあり方が変化している。この変化は、「ニューパブリックマネジメント」の理念の影響をみることができるが、ガバナンスに与える影響には多様性がある。単純な集権化と分権化というよりも、ガバナンスの変容にともなって、どのようなアクターが主導権を握り、どのレベルの政府が具体的な役割を負うかによって異なることが明らかになった。
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今後の研究の推進方策 |
平成25年度は、平成23年度の連邦主義の理念的なレベルの考察、平成24年度のケンタッキー州の事例研究からの考察を土台に、再度①連邦政府で「スタンダードに基づく改革」に理論的な基盤を与えた「体系的改革(systemic reform)」が提起されたときに議論を確認したい。また、②引き続き、ケンタッキー州の事例を調査検討し、2000年代以降の教育改革の変遷と修正点を明らかにしたい。そして、教育ガバナンスに与えた理論的なモデルとして「ニューパブリックマネジメント」などに注目して、グローバルな教育改革の中でのアメリカの「スタンダードに基づく改革」が、どのような意味を持つのかを考察する。
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次年度の研究費の使用計画 |
平成25年度は、「スタンダードに基づく改革」に関する文献調査から理論的な考察を深めるために図書を購入する。また、ケンタッキー州の調査、および、「スタンダードに基づく改革」の理論的な部分の形成に寄与した行政官・研究者・研究組織の調査・インタビューを行う予定である。また、以上の研究の成果を学会発表など行うための印刷費、資料整理などを行うための人件費を計上する。
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