本研究は、希望を主題とする道徳教育論を形成しその実践を省察的に想像する目的で展開されるものである。人間形成における希望を正当に評価し、人としての在り方や生き方に不可欠なものとして位置づけることは、道徳教育が引き取るべき急務の課題である。 平成25年度は、重点的には「希望を主題とする道徳教育論の形成」を意識して展開した。本年度に得られた成果は以下三点にまとめられる。 第一には、理論研究として文献講読を中心に、希望を人間の民主的な生き方に引きつけて検討してきた。具体的にはアメリカのプラグマティズムの教育哲学者であるウェストブルックやノディングズの緒論を再考した。この点については継続的な課題であるデューイの『人間性と行為』を再読する作業とも重ねることができた。第二には、フロムの人間形成論に特徴的な「有る様式」としての生き方がわが国の道徳教育に与えてくれる示唆について考察した。他者の成功や成就を期待することは日常的に誰もが経験することであるけれども、そうした期待感の背後に潜むある種の無慈悲さについて検討した。第三には、実践的な課題の解明として、岐阜市近隣や附属の小中学校で行われた研究公表会の道徳授業に関わったり、実際に小学校の講師として児童に希望の道徳について語ったりする機会を得た。後者については、岐阜県安八町の小学校で、他者と手をつなぐというスキルトレーニングも交えながら、他者と手を携えることで感じられる希望の意味について考えることができた。
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