台湾における日本植民地統治時期(1895-1945)では「国語=日本語」教育が実施され、計全5期の台湾人用初等国語教科書が台湾総督府によって編纂された。本研究は台湾で使用された国語教科書と同時期の国定国語教科書の教材を対照・比較し、どのような教材が台湾だけのために作られたものか、どのような教材が国定教科書と同じ内容で教える必要があったかを明らかにするものである。第一期教科書の分析では、国定教科書が台湾の教科書より遅く刊行されたため、両者に共通する教材を特定し、当時台湾の社会や風土習慣が教材に与えた影響や特徴を解明した。第二期教科書の分析では台湾の国語教科書に約4割の教材が国定教科書から取り入れられていたことを明らかにした 。 最終年度においては主に第三期教科書の分析結果を整理し、すでに完成されている第四期と第五期台湾国語教科書の研究成果(国定教科書関連教材がともに全体の3割程度)を含む全体的な考察を行った。教材分析によれば、第三期台湾国語教科書には約5割弱(48.66%)の教材が国定教科書の関連教材であることが明らかとなった。また、教材の内容分析結果によれば、第二期~第四期の教科書に最も多い国定教科書関連教材は「生活知識と実学教材」だったが、戦争が激化した第五期の教科書では、最も多い教材は「軍事・戦争教材」となった。各時期における国定関連教材の変化には、植民地の統治情勢や国語教育方針の調整及び教科書を編集する側の意図や考えが反映されている。 植民地時期の台湾国語教科書は単なる語学教材でなく、実学・理科・地理・公民等各分野の初歩的知識が詰め込まれている。本研究は台湾国語教科書と国定国語教科書の関連性を解明することにより、意図的に台湾で取り込まれた、もしくは避けられた「知識」を特定することに成功した。今後はこれらの成果を踏まえ、教材による植民地教育政策の検証をさらに進めていきたい。
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