研究課題/領域番号 |
23730779
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研究機関 | 長崎総合科学大学 |
研究代表者 |
山下 達也 長崎総合科学大学, 公私立大学の部局等, 講師 (00581208)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2013-03-31
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キーワード | 植民地教育史 / 教員史 / 朝鮮教育史 / 植民地朝鮮 / アジア教育史 / 東洋教育史 |
研究概要 |
本研究は、植民地朝鮮における教員集団の特徴および実態に迫ることにより、従来、植民地教育の「担い手」として説明・把握されてきた教員の位置づけについて再検討することを目的としている。 補助事業期間の1年目にあたる平成23年度は、日本と韓国において植民地教育政策関係資料の渉猟に努め、収集した史料の精読・分析を重点的に行なった。特に、『朝鮮の教育研究』(朝鮮初等教育研究会)と『朝鮮総督府月報』(朝鮮総督府)、『朝鮮彙報』(朝鮮総督府)、『朝鮮』(朝鮮総督府)の全巻を入手・精読し、教員による「時勢に応じた」教育研究活動の詳細に迫り得たことは、平成23年度の大きな成果である。 また、日本と韓国において各1名、植民地朝鮮の元教員およびその家族への聞き取り調査を実施した。同調査により、1940年代における師範教育や初等学校での国語教育(日本語教育)・「内地」教育、教員の「適材適所」、教員同士の関係等についての実態に関する貴重な証言を得た。植民地朝鮮を生きた人々の高齢化が進む中、こうした聞き取り調査によって得られる口述の資料は、植民地教育史研究にとって今後ますます重要なものとなる。 以上、平成23年度に収集した資料および聞き取り調査により、朝鮮における教員が、「内地人」/朝鮮人といった「民族」だけでなく、養成プロセスや資格の種類、「内地」生活経験の有無・多少、朝鮮滞在歴、性別といった属性の違いよって特徴を異にしていたこと、また、それらの特徴が植民地経営のストラテジーと関連していたことが明らかになってきた。 さらに、平成23年12月には、九州大学出版会より『植民地朝鮮の学校教員 初等教員集団と植民地支配』を刊行し、研究の成果を広く公表した。同書には、平成23年度中の研究成果が随所に活かされており、本研究課題の重要な成果物である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成23年度中は、当初の計画のとおり、朝鮮初等教育研究会発行の『朝鮮の教育研究』や朝鮮総督府の『朝鮮』、朝鮮教育会の『文教の朝鮮』等、必要な資料の収集・分析を行なうことができた。また、その結果として、植民地朝鮮の学校教員の多様性と植民地教育政策との関連についての新たな知見が得られている。ひとつの側面のみからでは概括することができない動的かつ重層的な教員集団の実態が明らかになりつつあり、植民地教育の「担い手」としてのみ説明・把握されてきた従来の教員の位置づけについて再検討するという本研究の目的達成はおおむね順調に進展しているといえる。 元教員への聞き取り調査は、調査対象者の病気や死去によってやむを得ず断念したこともあったが、日本・韓国の両国で各1回の調査を実施することができ、本研究を進めるうえで重要な当事者の証言を得ることができたため、研究計画・遂行に特段の変更や問題は生じていない。また、聞き取り調査の際に個人所蔵の資料(教案、児童の作成物、写真等)を閲覧・収集できた点も大きな収穫であった。 また、平成23年度中の研究成果の一部(朝鮮初等教育研究会を中心とした教員による教育研究活動の内容)は、平成23年12月に出版した『植民地朝鮮の学校教員 初等教員集団と植民地支配』(九州大学出版会)に収められており、研究成果の公表という点においても、おおむね順調に進展している。
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今後の研究の推進方策 |
補助事業期間の2年目となる平成24年度は、日本と韓国にて引き続き資料の収集・分析や聞き取り調査を行なうとともに、その成果を学会等にて発表し、論文を執筆する作業に重点を置く。 学会等での研究成果の発表は、日本国内だけでなく、韓国においても行なう。 また、聞き取り調査の対象者については、1910~1945年の期間内に朝鮮の教員であった人々に限定せず、当時朝鮮の学校に通った人や、教員の家族、教員と交流があった人々から幅広く話を聞く機会を設ける。これは、平成23年度の調査の際、朝鮮で教員を務めた方の家族から多くの情報が得られたためである。植民地朝鮮で教員だった人々の高齢化が進む中、当人だけではなく、その人のことを知る周りの人々からの幅広い情報収集が今後は重要となる。 「現在までの達成度」欄にも記載したとおり、平成23年度は聞き取り調査を予定していた対象者の病気・死去により、海外への調査回数が予定よりも少なくなった。そのため、次年度に使用する予定の研究費が生じた。今後はこの研究費を活用し、韓国での聞き取り調査を可能な限り増やす予定である。その際、上記のとおり、情報提供者の幅を広げて調査を行なう予定である。
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次年度の研究費の使用計画 |
平成23年度に生じた次年度に使用する予定の研究費と平成24年度に請求する研究費を合わせ、次年度はおもに次のような研究費の使用を計画している。 (1)海外での資料調査および学会への参加費、(2)国内での調査活動・研究成果発表の費用、(3)植民地教育史関係図書の購入費、(4)論文の印刷・製本費、(5)資料整理に必要な備品・消耗品費 次年度(平成24年度)は、平成23年度に比して、研究の成果を発表する機会が増加する予定である。 したがって、国内外での学会・研究会に参加するための費用や論文投稿・掲載にかかる費用、印刷・製本のための費用等が必要となる。平成23年度に生じた次年度に使用する予定の研究費は、おもにこうした費用に充てる計画である。
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