本研究は、植民地朝鮮における教員集団の特徴および実態に迫ることにより、従来、植民地教育の「担い手」としての側面のみから把握・説明されてきた教員の位置づけについて再検討したものである。本研究の成果は以下の2点にまとめることができる。 1.「民族」、養成プロセス、資格の種類、「内地」経験生活経験の有無・多少、朝鮮滞在歴、性別といった複数の属性に着目し、それぞれの特徴や関係性を明らかにしたことにより、植民地朝鮮における学校教員集団の多様で複層的な実態を浮き彫りにした。また、教員の多様な在り方が、植民地統治の政略と関連性を有していたことも明らかにした。 2.「内地人」教員と朝鮮人教員との軋礫や、教員の「内地」離れ、地方師範学校の施設・教育内容の不充分さ、女性教員の「苦境」、性差に応じた「適材適所」論の頓挫、「内地」からの教員招聘の停滞、深刻な教員不足と「質」の低下、そして教員の思想事件など、「帝国日本」の教育を通じた朝鮮統治に、ある種の綻びと停滞をもたらした教員集団の実態を明らかにした。 以上の研究成果は、それぞれ次のような学術的意義を有する。まず1の成果は、従来の研究では見落とされがちであった教員の複雑な存在様態を示すものとして、また、教員を通じた植民地教育政策の実態を明らかにしたものとしての意義を持つ。 2の成果は、朝鮮における教員が、植民地教育の「担い手」という、朝鮮総督府の「手駒」であった一方、植民地政策に綻びと停滞をもたらし得る「不安要素」でもあったということを示す。つまり、教員は、「帝国日本」の朝鮮統治を下から支える植民地権力の一部でありながら、それを内側から綻ばせる存在でもあり、そのアンビヴアレントな集団的特徴ゆえに、植民地権力が孕んだ内部矛盾としても捉えられることを初めて明らかにしたものであり、従来の植民地教員の位置づけに一石を投じるものである。
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