今年度は、近代日米における教育方法の「個別化」に関する研究成果をまとめ、学会発表を行った。詳細は以下の通りである。 1.1930~40年代のニューヨーク市において、市教育委員会が中心となって市内69の小学校で実施されたActivity Programというアメリカ最大の進歩主義教育の実験の内実やその成果について分析を行った。主に明らかになったのは以下の3点である。(1)Activity Programの具体的カリキュラムについて各学年で共通していたのは、①毎日児童自身が個別に一日の活動計画の作成や振り返り、および評価を行っていた点 ②各教科が学年ごとに設定された中心単元と関連付けられていた点 ③個人あるいはグループでの協同的活動による討論や劇、研究発表など、子どもの言語表現を重視した主体的活動を中心に展開されていたこと。(2)Activity Programの成果に関する学力調査の結果、伝統的な授業を行う対照校の方が、Activity校よりも特に算術計算と算術的論証で高い得点を得て、両者の差が拡大したこと。包括的学力テストでは、対照校がやや高い得点を得たが、両者の差は僅差であったこと。(3)Activity Programの成果に関する観察調査の結果、Activity校群と対照校群で大きな差が見受けられたのは、主体的な活動や批判的活動、リーダーシップ行動で、Activity校の児童たちは対照校よりも2倍以上多い行動を示したこと等が明らかになった。 2.1920年代~30年代の奈良女子高等師範学校附属小学校において、アメリカから移入された個人学習や協同学習を重視する生活単元学習が変容していく過程について明らかにした。すなわち、附属小学校では、ミズーリ大学教育学部附属学校でJ. メリアムが実践していた「観察」「遊戯」「談話」「手工」の4領域から成る生活単元学習を合科学習や各教科学習に導入し、メリアムの単元学習論の理念を生かそうとしていたことを明らかにした。
|