研究課題/領域番号 |
23730791
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研究機関 | 愛知教育大学 |
研究代表者 |
川北 稔 愛知教育大学, 教育学研究科(研究院), 准教授 (30397492)
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キーワード | 社会学 / 特別支援教育 / 発達障害 / 個人誌 |
研究概要 |
当初の計画では【理論的考察】【フィールド調査】【インタビュー調査】のうち、後者2つに軸を移す予定であったが、順序を入れ替えて研究を遂行した。1年目に予備的な【インタビュー調査】を想定以上に進めることができたが、反面で2年目の本年度は特別支援教育(障害児教育を含む)に関する【理論的・歴史的な考察】に多くの時間を割いた。 理由の一つは、24年度から分担者として参加した科研費研究(基盤研究B「多領域フィールドワークにもとづくメンタルヘルスの知と実践の浸透に関する理論構築」、課題番号24330150)における作業との同時並行で進行させたためである。同基盤研究では、労働・医療・福祉・教育領域におけるメンタルヘルスの浸透を考察中だが、このプロジェクトにおける教育領域を分担する上で、教育分野における包摂・排除とメンタルヘルス(特に障害に関する知識)の関係について、より長期的スパンからの知見の整理と考察を進める必要があった。この考察から、本研究にも有意義な知見を導くことができたと考える。 【理論的・歴史的考察】では、障害児教育の「共生・共育論」「発達保障論」の論争などにまつわる主張の変遷を追跡した結果、「教育」や「発達」独自の可能性をどのように評価するかが主張の分岐点となること、それが成人期のメンタルヘルスと異なる学齢期の特徴となることなど、分析上の見通しを立てることができた。 【フィールド調査】の成果の一つは、NPOとの共催により成人期の発達障害当事者の体験発表会(「大人の生きづらさを語る」)を開催したことである。30代や40代において「ひきこもり」支援を受ける若者が、学齢期や労働の場面での困難を振り返りながら語る生活史データを得ることができた。この発表会等を通じて複数のNPOとのネットワークを構築したことから、研究と支援の両面から、インタビュー調査を発展させるきっかけが得られた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初、2年目に予定していた【インタビュー調査】については、計画の変更が生じたことから十分な達成が得られなかった。一方、3年目に調査を遂行し、知見をまとめるための基盤は形成できたと考える。 まず、【フィールド調査】について、成人発達障害者の支援を考える体験発表会や、それをきっかけに複数のNPOによるプロジェクトへと展開(平成25年度に実施予定)したことで、成人当事者、家族のインタビュー調査を進行させる人的ネットワークが形成できた。 また代替的に遂行した【理論的・歴史的研究】の成果を3年目のインタビュー調査に生かすことが期待される。「共生・共育論」「発達保障論」などの論争は、包摂に資する教育の役割をどの点に求めるかについての対立であるといえる。その代表的な論点として、「子どもの潜在的能力や困難に関する客観的識別」「安心や安全を保障する空間」「同年代の児童生徒と同一空間への参加」が抽出できた。これらの論点をインタビュー調査において検証していく。 以上から、研究を遂行する順序には変更が生じたが、成果を上げるための基盤は構築されつつあり、総合的な達成度の評価は3年目にかかっていると考える。
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今後の研究の推進方策 |
【インタビュー調査】の推進について。1年目である23年度には、予備的なインタビュー調査を想定以上に進めることができた。その中で生じた課題は、個人誌(生活史)における「発達障害」に関連して語られるトピックの解釈可能性である。従来「発達障害」との関連が十分に認識されていない子どもの困難や特性がどのように障害と関連づけられるのか、エピソード的な事実の収集のみならず体系的な位置づけを可能にする方法論を再度確立したい。 【歴史的・理論的考察】24年度から分担者として参加している科研費研究(基盤研究B「多領域フィールドワークにもとづくメンタルヘルスの知と実践の浸透に関する理論構築」、課題番号24330150)における研究内容との相互的な発展を図りたい。科研費研究会などの機会を利用し、労働、福祉などの分野における成人期の課題と、学齢期の課題との比較対象を進める。 【フィールド調査】複数のNPOとのネットワークを生かし、研究上・支援上の両面からプロジェクトを進行する。具体的には成人期の当事者の「生きづらさ」に関する語りを障害との関連で共有する企画が進行中である。本研究での関東方面での研修会参加から、障害に関する学齢期と成人期の支援の異同について、「ボトムアップ的」(学齢期の支援に特徴的)「トップダウン的」(成人期の支援に特徴的)アプローチの対比という図式を得ることができた。この点も、フィールド調査やインタビュー調査に生かしていきたい。 これらの調査企画とともに、当事者や家族にとっての支援リソースを可視化する作業を進展させたい。
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次年度の研究費の使用計画 |
全体として旅費が研究費の多くを占めている。使用計画は以下の通り。 【インタビュー調査】25年度はインタビュー対象者との面談に要する県内交通費に旅費の多くを充当する計画である。なお、平成24年度のインタビュー計画の変更により、残額として、次年度使用額1,305円が生じた。 【フィールド調査】支援団体やネットワーク化や共催プロジェクトの実現のために、県内交通費に旅費を充当する。 【理論的考察】23年度、24年度と同様に、変化の著しい発達障害や特別支援教育に関する知識のフォローアップのため、関東や関西における研修会への参加に、旅費のうち県外交通費を充当する計画である。
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