本研究は、発達障害をめぐる理解をめぐり、医療や教育場面を含め、それらにとどまらない葛藤の背景を明らかにすることを目的としている。 当初は主として「発達障害」概念の普及後を焦点として研究を進めたが、最終年度は、より長期的な文脈(身体障害や知的障害を含めた統合教育やインクルーシブ教育)のなかでの発達障害理解に焦点を移した。具体的には、障害のある子どもが地域の学区へ就学することを求める「共育共生論」の主張について、雑誌『福祉労働』の記事を中心に検討した。 この作業から明らかになったことは、第一に共育共生論の障害理解が養護学校や養護学級への「分離」に対抗するなかで構築されていることである。分離に抗するうえでは、普通学級での子どもの問題行動などのリスクも受容されるべきものとして扱われる。これは特別支援教育において問題行動の対応や解決が強調されることと対照的といえる。 関連する第二の含意として、保護者や教員の障害理解への影響がある。共育共生論において保護者は地域での長いスパンでの生活を視野に、学齢期における専門的支援の充実よりも、「共に学ぶ」ことを選択する。また教員が「学び合い」を通じて獲得する職業的な達成感は、共育共生論の主張に共通すると考えられ、それが専門的な障害理解に距離を生じる背景の一つあるとの見通しが得られた。 なお、ライフステージに及ぶ障害理解に関しては別途資料収集を進めたほか、発達障害を持つ本人を招き、就労支援を学ぶ講演会を民間支援団体と共催で実施した(2013年11月23日)。
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