最終年度においては、中国高等教育拡大に関する政策の変遷を考察し、大学、専攻の設置、及び規模の変化などのマクロ研究を実施した。その上で、中央省庁所属大学(エリート大学)、及び大衆化の担い手となっている地方政府所属大学と民弁大学をそれぞれ一校ずつ選び、大学の関係者を対象にインタビュー調査を実施すると同時に、大衆化前後(1998年~)の各大学の変化の資料を収集した。各種類の大学に対して、インプット、スループット、アウトプットという三つの角度から、大学の機能分化の実態に迫る。その結果は、以下の通りである。 ①高等教育の大衆化が実施してからの最初の数年間は、すべての大学が急激な拡大に踏み切ったが、数年後に、質の低下を危惧し、エリート大学は拡大にブレーキをかけた。それに対して、地方大学、特に大学の経営が学費に大きく頼る民弁大学は、拡大をし続けている。②インプットから見ると、高い学力の学生がエリート大学に進学するという構図は拡大前と比べ、特に変化はないが、地方大学と民弁大学は定員割れの問題に手を焼いている。その背景としては、高等教育全体の規模の持続的な拡大に対し、一人っ子政策のために18歳人口の持続的な減少による需給ギャップが挙げられる。また近年拡大しつつある中高生の海外留学ブームも大学進学者の減少を招いた。大学の定員割れを防ぐために、調査した沿海部の地方大学、民弁大学は、内陸部、そして地元の戸籍を持っていない出稼ぎ労働者の高卒者のリクルートに力を入れている。③スループットから見ると、地方大学は、経営、法律などのような事務職員層、販売従事者など一般にホワイトカラーと称される職業群に直結する経営学、外国語などの専攻を中心に、進学が拡大した傾向が読み取れる。一方、民弁大学は、より市場の需要に応じて新しい専攻を設置する傾向がある。④アウトプットから見ると、大卒者の就職難が共通的に見られる。
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