研究課題/領域番号 |
23730802
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研究機関 | 国際教養大学 |
研究代表者 |
山崎 直也 国際教養大学, 国際教養学部, 准教授 (10404857)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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キーワード | 台湾 / 比較教育 / 教育改革 / 多様化 / 高等教育 / 国際化 / 教科書 |
研究概要 |
当初交付申請書でその可能性に言及したとおり、研究代表者の山崎直也が台湾外交部「台湾奨助金」フェローとして、平成23年8月から平成24年3月まで、国立政治大学外交学系で調査研究を行うことになったため、本年度は研究対象地域である台湾での比較的長期にわたる現地観察が可能となった。上述フェローシップのテーマである「高等教育の国際化」との連動により、高等教育が観察の重点となったが、初等・中等教育についても、最新動向の把握に努めるとともに、文献資料の収集を行った。高等教育レベルでは、少子化と大学数の過剰な増加による国内での競争の激化に加え、アジア地域における学生流動の量的増加、移動の複雑化が国外大学との競争に現実味をもたせる中で、各大学が特色とスクールアイデンティティの確立に意識的となっている様子が見て取れた。加えて、入試制度改革、政府による教育・研究プロジェクトへの助成、日本に比して格段の重みを持っている大学評価といった様々な要因が多様化を促しているが、一方で受け手である学生および保護者の教育に対する観念、価値観の変化が多様化する現実に追い着いているのか、両者のギャップの問題が今後多様化の定着を論じる上で、重要なポイントとなることが理解された。一方、中等教育レベルでは、多年にわたり取り組んでいる検定制導入後の学校教科書の多様化について、国家教育研究院教科書図書館での集中的な資料閲覧により、研究のアップデートが可能となった。北海道大学アイヌ・先住民研究センターでの教科書研究会(台湾原住民に関する記述の変化)、日本台湾学会第59回台北定例研究会での報告(中学校『社会』教科書の内容分析)は、その成果の一端である。また、今後高校の多様化に大きな影響を与えると見られる「十二年国民教育」(2014年実施)についても、資料の収集を行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度は台湾での長期現地滞在により、当初の想定以上の資料および情報を入手することができた。これまで国民教育段階(小・中学校)を中心に研究を進めてきた研究代表者にとって、本年度の研究の重点となった高等教育の研究は、新たな取り組みであったが、実際に台湾の大学に身を置いて調査研究を行い、またいくつかの大学に足を運んで意見交換を行うことで、台湾の高等教育の特徴、変化の方向性、直面する課題について多くを吸収することが可能となった。また、今回の滞在では、研究ネットワークの拡充を図ると同時に、教育(研究)をめぐる情報環境への認識を更新し、研究代表者がインターネット上に構築しているウェブページ「台湾教育研究リンク集」(http://www.yamazakinaoya.com/taiwanedulink.html)の内容刷新を行うことも可能となった。これらのことは、研究代表者が今後の研究を推進する上で、大きなプラスになるものと思われる。また、台湾教育研究に役立つページの情報を集積である「台湾教育研究リンク集」は、一種の研究インフラとして、新たな研究を促す呼び水としての効果も期待されることから、今後も継続的にアップデートを行っていきたい。一方、反省点としては、現地で受け取る膨大な量の情報を処理し、動向の即時的に把握することに多くの時間を要したこと、日本語文献へのアクセスが限られていたことから、教育の多様化に関する理論的・概念的考察については、当初の予定に比して作業が進捗しなかったことが挙げられる。台湾の教育経験をより広い枠組みの中に収めて他と比較可能とし、相対化によってその意義を見極めていくために、理論的・概念的な考察を深めるとともに、他の地域を専門とする研究者との積極的な意見交換を通じて。台湾の事例研究の意義を極大化することを次年度以降の今後の重要課題としたい。
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今後の研究の推進方策 |
本年度の長期現地調査で構築した研究ネットワークを活用しながら、平成24年度は高等教育、平成25年度は「十二年国民基本教育」の正式実施を翌年に控えた後期中等教育を重点として研究を推進していくことを考えている。多様化を促す諸要因の精査とその間の相互作用の解明を目指すとともに、台湾社会がこうした変化にいかに対応しているのかを具に観察していきたい。研究代表者が2011年発表の論文で明らかにしたように、「教材多元化(多様化)」とも表現される国民教育段階の教科書制度改革は、検定制実施後の2000年代において、いくつかの一元化への揺り戻しの動きに直面した。各学校段階の各側面における重要な多様化の動きについて、いかなる多様化が台湾社会への定着を許容され、いかなる多様化が定着しえないのかを問うことで、台湾の教育および社会の本質的な特徴が浮き彫りになるものと考えている。平成24年度以降は、初年度(平成23年度)の研究を通じて浮上してきた問題点について、現地での資料調査と聞き取り調査を適宜行いながら、考察を深めていくことを考えている。具体的に、高等教育段階では、「ディシプリンの専門知の詰め込みを意味する過度の専業化=一元化という伝統的特徴からの脱却は可能か」との問題意識に基づき、学部学科の再編、カリキュラムの柔軟化、教養教育の重視といった現象を重点的に扱う。また、留学生受入れ、英語プログラム(科目)の増加など、国際化によって引き起こされる教育環境の多様化についても考察を深める。中等教育段階では、「十二年国民基本教育」が多様化にもたらす影響を明らかにするとともに、各校によるスクールアイデンティティ確立の動きを追っていきたい。2012年6月の日本国際教育学会第48回大会で高等教育における教養教育の再編について発表を行うことが既に決定しているが、その後も随時、国内外で口頭・論文発表を行っていく。
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次年度の研究費の使用計画 |
平成24年度は、2012年8月(10日間程度)と2013年1月(2週間程度)の二度にわたり、台湾での資料収集と聞き取り調査を予定しており、前者は27万円、後者に約35万円の支出を見込んでいる(秋田―東京間の国内移動を含む航空運賃と日当・宿泊費の合計)。また、研究発表を行う2012年6月の日本比較教育学会第48回大会(九州大学)出席のための出張(7万円程度を予定)ほか、学会・研究会参加、資料収集・意見交換のための東京出張(2泊3日)を年度内に2回行う予定である(6万円程度)。上記の旅費のほか、資料整理のためのアシスタントの謝金(800円x4時間x32週=10万2,400円)、図書資料の購入費25万円、消耗品・文献複写費・学会年会費および参加費等で14万円の支出を予定していることから、全体で130万円の予算を計上している。
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