研究課題/領域番号 |
23730802
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研究機関 | 国際教養大学 |
研究代表者 |
山崎 直也 国際教養大学, 国際教養学部, 准教授 (10404857)
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キーワード | 台湾 / 多様化 / 一般教育 / リベラルアーツ教育 / 教科書 / カリキュラム / ナショナル・アイデンティティ |
研究概要 |
本年度は高等教育を重点的に研究し、とりわけ1990年代以降の「通識教育」(General Education)の展開と近年の「博雅教育」(Liberal Arts Education)導入の動きに注目した。台湾の高等教育に専門性への強いこだわりは、一方で学部/ディシプリンによる縦割りを生み、1990年代以来の通識教育の定着に影響をあたえてきた。通識教育課程が形式化・周辺化し、「栄養学分」(努力なしに取得できる単位)と呼ばれる状況の中で、2000年代後半以降、「書院制度」(College System)に基づく博雅教育教育の導入がいくつかの大学で始まっているが、これらは対象を全体から一部に絞った上で、学部の縦割りを超えた教育を実効的に行おうとする試みであると言えよう。高等教育における学びの多様化、さらにその先のキャリアパスの多様化について考える上で、通識教育の歴史的展開と博雅教育導入の動きは極めて示唆的であり、本年度は日本比較教育学会第48回大会(2012年7月)及び日本国際教育学会第23回大会(2012年9月)で関連する研究発表を行った。平成25年度にこれらの成果を論文にまとめ、投稿を行うことを予定している。 上記の高等教育の多様化(の困難性)に関する考察に加え、初等・中等教育段階におけるカリキュラムと教科書についても研究を行った。「教材多元化(多様化)」と呼ばれる教科書改革(国定から検定への移行)が行われた2000年代の状況に重点を置いたが、ナショナル・アイデンティティの教育をめぐっては、「中国化」と「本土化(台湾化)」と二つの論理が拮抗し、相互に排他性を獲得しえない状況によって、結果的に多様化(二分化)したナショナル・アイデンティティが教えられていることを発見した。この問題については、次年度も引き続き考察を続けていきたい。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究を進める中で当初想定していなかったいくつかの考察課題が現れているが、それらはいずれも「台湾における教育の多様化」という本研究課題の趣旨に即したものであり、研究の進捗があればこその発見と言える。台湾に特化した地域研究・事例研究に比して、理論化・概念化の作業が遅れているため、他国、特に他のアジア諸国の動きに関する研究を強化し、台湾の事例を「(東)アジア」/「世界」といったより大きな広がりの中に位置づけることによって、リージョナル/グローバルな傾向性を発見すると同時に、相対化によって台湾教育の特徴を把握したい。
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今後の研究の推進方策 |
最終年度となる平成25年度においては、2年間の研究の成果を口頭発表および論文投稿の形で積極的に発表していくことを考えている。 高等教育段階では、平成24年度に続き、教育の多様化、その後のキャリアパスの多様化に強く影響する「専門化」と「一般化」の問題について考察を進めていきたい。既に取り組んでいる通識教育(General Education)、博雅教育(Liberal Arts Education)に関する研究に加え、これと密接に関連する学際的な学び(地域研究等)の歴史と現状についても、研究の射程に収めていきたい。 初等・中等教育段階においては、カリキュラムと教科書をめぐる研究を継続する一方で、2014年からの開始が予定されている「十二年国民基本教育」のインパクトについて、特に一元化と多様化への影響という観点から、観察を進めていきたいと考えている。 一方で、理論化・概念化面での研究を強化するため、台湾の「外」の教育についても、観察を進めていく必要性を感じている。韓国、中国、香港・マカオ、シンガポール等の状況について、台湾との比較の視点から情報の収集に努めたい。
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次年度の研究費の使用計画 |
平成25年度においては、台湾教育に関する研究資料の収集、現地調査の実施に加えて、韓国、中国、香港・マカオ、シンガポールの事例についての理解を強化したいと考えている。研究資料の収集に加え、必要に応じてこれらの国での現地調査を計画したい。
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