本年度は、多様化に向かう台湾の教育改革の全体状況を見据えながら、中等教育及び高等教育段階のそれぞれに重点を設定し研究を進めた。 中等教育段階では、教育の多様化の象徴として、約10年の時間をかけて全面的な検定制度を導入した教科書に着目し、所謂「教科書開放」以降の教科書とナショナル・カリキュラムをめぐるアイデンティティ・ポリティクスを分析した。2008年の政権交代後の状況を「2008年政権交代後の台湾における教育とナショナル・アイデンティティ」(『アジア教育』第7巻所載)として発表したが、民主化・自由化の産物として大きな期待を背負って成立した検定教科書制度は、台湾の文脈において、未だ教科書の脱政治化をもたらすには至らず、アクターの増加が教科書をめぐる政治の複雑性を高めている状況が見て取れた。 高等教育段階では、大学数の急増と少子化による学生の減少という環境下において、各大学が独自性の確立を目指しており、そのことが多様化を促している。本研究では、カリキュラムに着目して各大学の差異化の動きを追ったが、全体として見ると、台湾では学部/ディシプリンの垣根が高く、それゆえ学際的カリキュラムの導入が(特に学部レベルでは)日本に比べ少ないことが明らかになった(「日台高等教育における国際教養教育とグローバル・スタディズ教育の展開」『国際教育』第19号所載)。 高等教育段階のもうひとつの重点は、「教養教育」の改革であり、この概念が持つ二つの意味の双方を視野にいれて、各大学がカリキュラムの一部として行う「通識課程」(日本の教養課程に相当)の改革動向を追うと同時に、一部大学が導入する「書院制度」(レジデンシャルカレッジ・システム。その多くはリベラルアーツ教育を標榜している)に関する研究を進めている。(後者については、2014年7月の日本比較教育学会第50回大会で発表を行う。)
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