先進各国と比較すると、日本の中退率は低く教育の研究分野で研究対象として積極的に取り上げられることは多くなかった。わずか数%の中退者は研究上、蚊帳の外におかれていたといえる。ところが、中退者「数」に着目すれば、中退のはらむ問題が浮かび上がってくる。例えば、平成20年度の高校中退者はおよそ6.6万人であるが、同年度の高卒「無業者」(=『学校基本調査』での「左記以外の者」)は約5.4万人となっており、高校中退者の数が「無業者」を上回っている。1990年代後半以降、高卒「無業者」は職業移行の危機の表れとして積極的に研究対象となったが、数で上回る中退者に関する研究が着手されることはほとんどなかった。 うえのような問題関心から、本研究の目的は中退者が職業移行の困難に陥っているのか、そして仮に困難に直面しているならば、その背景にはどのような要因が存在しているのかを計量的に議論することである。具体的には、正規雇用/非正規雇用への就業に関して中退者と卒業者を比較検討する。またその際、中退者の移行パターンは、戦後いかに変化しているのかといった、時系列的な観点を加味する。こうした作業を通じて、職業移行に関する問題点を提出した。 主の知見は下記の通り。 中退者における職業移行の困難は高学歴化や労働市場の変化といった要因だけでは説明がつかず、「学校経由」といった制度的な要因の影響があると思われる。さらに、中卒者の移行パターンと比べると、「学校経由」の方が基底的な影響力を持っているようにも考えられる。1990年代前半以前は、「学校経由」の影響力が大きかったが、それ以降は「学校経由」のうえに高学歴化や労働市場が影響力を持ち始めたと解釈できる。
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