本研究は,日本・フランス・米国の中等教育(主に前期)における証明の実際の扱い(生態)と,それぞれの扱いを生じさせている様々なレベルの条件と制約(数学的,カリキュラム的,社会的,etc.)を,各国の数学教科書と国定カリキュラムの分析を通して,明らかにすることを目的とする.この目的を達するため,本研究では次の4つの課題を設定した.1)教科書等の資料収集,2)先行研究の収集とレビュー,3)本研究が依拠する「教授人間学理論」にもとづいた分析枠組みの構築,4)フランスと米国,日本の場合における教科書と国定カリキュラムの分析. 3年間の研究期間では,分析枠組みの構築を念頭に,フランスと日本の場合に焦点を当てて研究を進めてきた.当初は,証明の形態と機能という視点から前期中等学校の数学教科書の分析を進め,日仏では証明の形態が異なるとともに,数学の営みにおいて証明が果たす機能が異なることを示した.その後,分析枠組みを発展させ,証明の“存在理由”(なぜ証明を教えるのか)という新たな視点を取り入れた.この枠組みを用いて,国定カリキュラムと教科書を分析することにより,フランスでは日本と異なる証明の存在理由が採用されていること,その帰結として,日仏それぞれの教科書で特定した証明の生態が生じていることが明らかになった.例えば,フランスの場合,知覚に頼らずに図形の性質を認識できることが証明の存在理由の一つとなっており,そのために,教科書では長さや角度が実測と大きく異なる図や手書きの図とともに証明が生息していることが明らかになった. これらの結果は,わが国の証明に関するカリキュラム開発において,証明の扱いについて新たな選択肢を供するとともに,これまでとは異なった場所(生息地)で証明を扱いうることをも示唆している.
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