研究課題/領域番号 |
23730833
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研究機関 | 島根大学 |
研究代表者 |
有田 洋子 島根大学, 教育学部, 講師 (70598143)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2013-03-31
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キーワード | 美術教育学 / 鑑賞教育 / 日本美術 / 様式 / 言語 / キャッチフレーズ |
研究概要 |
日本美術の鑑賞教育と言語活動を活かした美術教育は未だ十分に解明されていない。本研究は日本美術の諸様式を言語化して学ぶ鑑賞教育方法を考案して実践し、その教育的有効性を検証した。具体的には日本の彫刻と絵画の代表作と様式を選定してキャッチフレーズ化した教材を協力校で実践し、その教育的有効性を明らかにした。 (1)基礎的研究:飛鳥から明治時代までの代表的様式の作品を選択し、1.対象作品の様式内容を言語的に分析・記述した。関連文献と博物館や寺院等の所蔵先で調査した。2.前記内容を踏まえ、その作品・様式のキャッチフレーズを作成した。その際に言語論、擬態語・擬音語辞書等の関係文献も調査した。3.キャッチフレーズの教材化として、模型、作品カード、プロジェクタ画像、カルタ等を利用するゲームを考案した。(2)大学での試行的実践:島根大学教育学部美術専攻学生対象に上記授業を実践して、反応と感想を収集した。大学生は様式を感受理解でき、様式を判別するクイズでも約7割の正答率が得られた。感想文やアンケート等から授業方法は好評であった。(3)協力校での本格的実践:上記の試行的実践を踏まえて、教育内容や授業計画の妥当性を検討し、協力校の実態や対象者の発達段階に応じた授業方法となるよう調整した後、平成24年3月13日に島根大学教育学部附属小学校5年生対象に実践的した。(4)協力校での実践結果の考察:児童生徒の活動の様子、ワークシートやアンケート等を分析した。小学生は様式を感受理解でき、様式判別のクイズでも約7割の正答率が得られた。感想文やアンケート等からも授業方法は好評であった。特筆すべきは、小学生段階の鑑賞では難しいとされてきた様式つまり表現の質的内容の感受理解が、今回の実践で可能なことが実証されたことである。 以上の研究成果は、平成24年3月27日、第34回美術科教育学会新潟大会において発表した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
1.まず、基礎的研究として飛鳥から明治時代までの代表的様式の作品を選択し、対象作品の様式内容を言語的に分析・記述でき、その内容を踏まえ、その作品・様式のキャッチフレーズを作成することができた。そして、模型、作品カード、プロジェクタ画像、カルタ等を利用するゲームを教材として考案できた。 2. 大学での試行的実践では、大学生は様式を感受理解でき、様式を判別するクイズでも約7割の正答率が得られた。感想文やアンケート等から授業方法は好評であったので、教材化の有効性が予想できた。 3. 上記の試行的実践を踏まえて、教育内容や授業計画の妥当性を検討し、協力校の実態や対象者の発達段階に応じた授業方法となるよう調整した後、協力校で本格的実践ができた。 4. 協力校での実践では、小学生は様式を感受理解でき、様式を判別するクイズでも約7割の正答率が得られた。感想文やアンケート等からも授業方法は好評であった。小学生段階の鑑賞では難しいとされてきた様式つまり表現の質的内容の感受理解が、今回の実践で可能なことが実証されたという特筆すべき成果も得られた。 5. 以上の研究成果を、平成24年3月27日、第34回美術科教育学会新潟大会において発表することができた。
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今後の研究の推進方策 |
平成23年度に得られた成果を基に、画像等の調査収集及び分析、前年度作成教材の再実践による有効性の検証、改訂教材の作成及び実践そしてその結果の分析を行い、結論をまとめる。 まず、平成23年度は大判図版から提示用画像を作成するのは困難であったので、大判用スキャナを使った画像収集をする。既に作成した教材に関しても、実作品を目視して様式分析が適切であったかどうかも検討する。そのために京都・奈良の古社寺及び博物館での調査を行う。それらを基にして改訂教材を作成する。 実践的研究は、1.島根大学教育学部附属小学校、2.島根大学教育学部附属中学校、3.茨城県内学校(つくば市立豊里中学校等)で、実践を行う。それによって、この鑑賞教育方法の妥当性を、確実性と一般性をもって検証する。平成23年度の実践では小学校5年生に教育効果が見られたので、小学校の別学年及び中学校で実践を行い、各学年段階あるいは発達段階における教育的有効性を検証する。島根大学教育学部附属小学校及び同中学校は、前年度からの研究の継続性の関係上実施する。茨城県内学校は、同校教員とはこれまでの研究会等を通して研究についての共通理解ができており、効果的な実践が期待されるとともに、この鑑賞教育方法の妥当性を地域性によらない一般性をもって検証するために行う。 研究成果のまとめと発表をする。研究の結論をまとめた報告書を作成するとともに、美術科教育学会等で口頭及び論文発表をする。
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次年度の研究費の使用計画 |
まず、平成23年度は日本美術作品画像等の調査収集と分析にあたって、大判図版から提示用画像を作成するのは困難であったので、平成23年度研究費を使い切らないでおき、その残金を平成24年度研究費と合わせて、画像収集のための大判用スキャナ購入費に充てる。 さらに、基本的作品研究のために図書が必要である。既に作成した教材に関しても、実作品を目視して様式分析が適切であったかどうかも検討する。そのために、東京国立博物館、京都・奈良の古社寺及び博物館等での調査を行う旅費が必要である。カルタ等の教材を作成するためにプリンタ用インク、印刷用紙、文房具、複写・コピー費が必要である。 実践は、報告者の勤務地の近隣の島根大学教育学部附属小学校及び同中学校だけでなく、茨城県内学校でも実践する。打ち合わせや実践等に赴くため、また教材等を運ぶため、旅費、宅配便費等が必要である。 結論のまとめと発表の段階では、報告書印刷費等が必要である。
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