研究課題/領域番号 |
23730836
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研究機関 | 山口大学 |
研究代表者 |
南浦 涼介 山口大学, 教育学部, 講師 (60598754)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2013-03-31
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キーワード | 教科教育研究 / 社会科教育 |
研究概要 |
当該年度は,研究目的を遂行するため,大きく2つの研究を実施した。1つは,当該年度以前から進めているビリーフ研究の質問紙作成のまとめのジャーナル発表,第2は,作成した質問紙を基にした研究の推進である。第1の点はジャーナルでの発表であるが,当該年度は特に第2について中心に研究は進められた。研究協力者である福岡県筑豊地域に在する中学校の教師の担当する社会科クラスに焦点を当てて研究を進めていった。上記クラスの1年生,ならびに3年生に対して調査を実施した。質問紙には,「社会科学習で重要だと思われる事柄」について順位法によるランキング,上位3項目についての理由,前回調査との変化の理由,ビリーフ形成に影響を受けたもの,についてを問うものになっていた。この質問紙によって,4月,5月,7月,12月,3月の時点で回答をしてもらい,質問紙の回答の全体的傾向,およびその縦断的変化を考察可能にした。また,学校の状況から可能であった3年生に着目し,教員が日常的に行う授業の観察を経て,3月の卒業式終了後に,5名の生徒に対して,アンケートの縦断的変化についてフォローアップインタビュー(FI)を実施した。FIでは,縦断的変化の理由,ビリーフ変化について社会科担当教員の影響の有無とその内容,高校受験の影響についてインタビューを行った。 ここからは,中学3年生の社会科学習についてのビリーフ変化には,教員の姿勢が大きく影響していること,また,日常的に繰り返される印象的な授業活動のパターンがいかに年間カリキュラムに埋め込まれるかが重要であることがうかがえた。これによって,単元レベルの研究が多い社会科研究の現状に対し,よりミクロレベルの活動タスク,およびよりマクロな教師のカリキュラムの研究が重要であるという示唆を得た。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究計画について,当初の研究計画としては,複数校を調査対象に入れたより大規模な調査を予定していた。しかし,子どもたちのビリーフ変化を見出すための研究を推進していくためには,研究協力校として次の条件が必要となった。1つは,教師が子どもたちに対して社会科学習の価値観を変化させたいと願い,意識的に授業改善や授業方法の向上を念頭に置いた教師であること,第2に,こうした研究について理解を持ち,自身の授業に対して子どもたちのリアルな感想を受容可能であり,またそのために研究者が教室に入り,時に子どもたちへのインタビューを認められる教師であること,第3に,学校内でそうしたことを実施するため,当該教師が校内でそれを可能にする職業的立場を有していること,であった。この3つが有機的に連動しなければ,研究者が校内に入り込み,教師,また,生徒と信頼関係(ラポール)を形成することは甚だ困難であり,また,研究の遂行も困難であることがうかがえた。 生徒のビリーフの状況に加えて,その「変化」とその理由を探るという本研究目的を遂行するにあたっては,上記の制約を乗り越えるためには,幅広い調査対象校を選定することよりも,より信頼関係の構築可能な希少性の高い1校を選ぶことの方が優先された。研究遂行者の能力の限界ではあるが,こうした研究の特質上,当初想定していた5件法による質問紙による複数校の調査ではなく,研究協力校を1校に絞り,複数回アンケートに回答しなければならない生徒の負担軽減を目的とした順位法の調査に変更した。 しかし,その分,スムースに研究は推進し,研究協力者およびその生徒とのラポール形成もうまく構築され,より深く具体的な調査が可能になった。
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今後の研究の推進方策 |
次年度は,当該年度の研究の推進に加味する形で,小学校から中学校に移行した直後である中学1年生のビリーフの分析を行う。そのため,前年度と同様に福岡県筑豊地域の中学校を対象とし,中学1年生の変化を追う。質問紙については4月,7月,12月,3月の,学期の句切りを単位として実施し,3月終了時にフォローアップインタビューを行う。また,機会に応じて,教員の授業観察,および教員へのインタビューを行う。また,当該年度の調査の結果およびその考察について,10月および11月に行われる社会科教育学関係の学会において成果発表を行い,あわせて24年度3月末日締め切りのジャーナルへの投稿を視野に入れる。 また,ビリーフ研究は社会科では未だ行われていないが,教育心理学や社会学,他教科の教育,あるいは諸外国において研究されている,こうした関連学会に赴いて関連研究の情報取集も合わせて行う。
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次年度の研究費の使用計画 |
次年度は,研究の推進に加え,成果の整理および発表を計画している。そのために,以下の事柄に関する研究費の使用を計画している。・調査に関連して,質問紙の記述回答部分に対しての計量テキスト分析を実施する。そのための機材として,IBM SPSS Categoriesを購入する。・成果発表のための学会参加として1回,情報収集として1回を視野に入れる。・また,データの分析に対する学生アルバイトのための費用を計上している。なお,平成23年度に未使用額が生じたのは,上記の研究の推進方法として,当初複数の学校教員に対して研究協力を行うことを視野に入れていたが,より詳細な質的研究の手法を取らざるを得ず,研究手法に変更が出たためである。具体的には,平成23年度内で一定程度のデータ収集とその分析・整理が終了と考えていた調査が,年単位を基本としたロングスパンでのデータの蓄積が必要となった。そのため,データの収集完了が,平成24年度に大きく食い込むことになった。そのため,当初予定していた1年目の研究成果発表などに必要となる出張費,ならびにデータ解析に必要な諸経費を,平成24年度に回すことになった。
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