研究課題/領域番号 |
23730851
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研究機関 | 宮城教育大学 |
研究代表者 |
永井 伸幸 宮城教育大学, 教育学部, 准教授 (50369310)
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キーワード | 視覚障害 / ロービジョン / 読書 |
研究概要 |
視力が低いために眼を近づけて読書を行う弱視者にとって、電子タブレット等を用いた教科書や教材は、どのような影響を及ぼすのか、読書行動の解析という観点から明らかにすることが本研究の目的である。 前年度は、接近視の行動を解析する方法を検討し、多チャンネルデータ収録解析システムにEOG測定ユニットを加えたシステムを導入するとともに、紙ではなく画面を見ることによる読書面の明るさの違いが読書行動に及ぼす影響を調べるために、画面のコントラストと好みの文字サイズの関係について研究を行った。今年度は、接近視条件での実験方法確立と、前年度得られたデータの詳細な分析を実施した。 データの詳細な分析は以下の通りである。参加者は4名の晴眼者で、混濁シミュレーションレンズを用いて画面を見た。通常画面条件と白黒反転画面条件の2条件設定した。また、コントラストを段階的に低下させた(95%、50%、25%、10%)。比較対照のため、そのまま見る晴眼環境でも実施した。2要因の被験者内分散分析を行った結果、画面表示条件において有意傾向(p <.10)が見られ、白黒反転した方が選択される文字サイズが小さくなる傾向が示された。さらに、10%コントラストにおいて選択される文字サイズが、他のコントラスト条件に比べて有意に大きかった(p <.05)。晴眼環境では、画面表示条件には有意差は無く、10%コントラストにおいて選択される文字サイズが有意に大きかった(p <.05)。これらのことから、接近視では、紙ではなく画面で読書を行う場合、白黒反転が容易にでき、顔を近づけても明るさが変化しないため、より小さな文字サイズを選択し、読むことが可能になるという特徴があることが示唆された。 接近視の実験方法については、機材のデモンストレーション等で検討を重ね、眼球運動と合わせて画面によって照らされる眼前の照度を測定する方法とした。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
今年度夏に、昨年度の成果について学会発表を行った際、今後の研究を進めるにあたって視距離の変化に伴う視対象の照度変化を測定した方がいいとの指摘を受けた。また、眼球運動測定の際に、同時に手や頭部の動きも同時に測定した方が有益であるとの助言を受けた。そこで、確実な研究成果を得るため、機器を購入する前に、加速時計とEOGの組み合わせやゴニオメーターとEOGの組み合わせについて慎重に検討を進めた。複数の取扱業者との意見交換やデモンストレーションにより検討したが、予算内で有効な方式を導入することは難しいと考えられた。そのため、照度変化の測定方法についてのみ作業を進め、接近視による読書時の照度変化についての測定方法の確立を図った。一方で、実際に研究に参加してもらう予定であった視覚障害当事者の事情により、年度内に協力を得られることが難しくなったために、実験を年度内に実施することが不可能になった。 これらのことより、研究課題遂行の見通しは立てることができたが、実際に実験を行い、結果をまとめるところまでは達成できなかったため「やや遅れている」と評価した。
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今後の研究の推進方策 |
次年度で研究が終了するよう、計画的に研究を進めることに専心する。 今後は、7月までに紙面と画面における接近視と画面の明るさの関係について実験を行う。その間、同時に研究協力者の視覚障害者と、研究実施について調整を行う。8月より、接近視による読書行動の測定を進める。始めに、読書チャートMNREAD-Jを使って、視距離を固定した場合と視距離を自由にして接近視をした場合の読書速度と臨界文字サイズについて実験を行う。続いて、画面上に提示された文章に対する接近視による読書を行った際の、臨界文字サイズ、好みの文字サイズ、眼球運動特性について実験を行う。 11月までに実験を終了し、その結果を整理・分析し、電子教材の弱視児童生徒に対する長所短所、弱視児童生徒に配慮した電子教材作成上の留意点としてまとめ、公開することを目指す。その間、学会等への参加の機会に他の研究者や実践者から助言を仰ぎ、実験や成果のまとめがより有益なものとなるよう努める。 さらに、成果をまとめ、国際ロービジョン学会(Vision2014)等で発表する。
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次年度の研究費の使用計画 |
物品費:データ分析に必要なソフトウェアを購入する。その他、データの測定、記録、保存に必要な物品を購入する。 旅費:実験を実施のための旅費を支出する。また、情報収集、助言を得るために、日本特殊教育学会大会、日本ロービジョン学会大会、弱視教育研究全国大会等への旅費を支出する。 謝金:実験を実施するにあたり参加者に謝金を支出する。 その他:研究発表のための英文校正費、投稿・掲載費を支出する。
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