聴覚障害学生に特化した自習用Eラーニングを設計することが目的である。聴覚障害の学生に対する講義は健聴学生と比べて、情報保障によるロスが生じる分、講義で伝達できる内容が半分から3分の1という実感を持っている教員が多い。そのロスの補完のために自学自習が可能なEラーニングは有効であると予想される。しかし、代表的なEラーニングシステムは手話や字幕の表示領域が設定されておらず、聴覚障害に対する配慮がなされている物は無い。本研究では質問紙調査に加えてビデオ撮影・視線追跡などの行動観察、唾液中アミラーゼ計測などの生理計測の手法を用いて聴覚障害者のための自習用Eラーニングシステムのあり方を探った。 結果的に本研究で提案したのは「文脈追従型字幕」である。従来のEラーニングシステムでは字幕の表示位置が画面下部に固定して表示されたが,話者の動きや指さしなどの動作に応じて字幕を表示する提案である。プロトタイプを作成し,29名の聴覚障害学生に呈示し,従来型字幕との比較を行った。 その結果,従来の字幕に対し本提案では,有意に視線移動量が減少することが判った。また,ストレスには有意な差が認められなかった。理解度と視認性に対する主観評価は,従来型に好意的な傾向があったが統計的有意は認められなかった。 今後,被験者属性との相関など,より詳細な検討を進めていく予定である。
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