本研究の目的は,一般就労が困難な発達障害者における新しい社会参加手法の開発であった.超短時間就労(週に数十分・数時間程度の作業補助)という従来の就労支援とは全く異なるアプローチを適用し,労働を通じた教育・学習の機会を提供することで,社会参加に至る可能性をエビデンスと共に探索的に検討することを目的とした. 上記目的の達成のため,本研究では以下の4つの観点から研究を実施した.(1)一般就労が困難で悩んでいる発達障害者に対して,どのように既存の資料から対象者の困難を簡便にアセスメントし,困難解消策や支援策を提案できるか,(2)身の回りにある入手しやすいデイバイス(例えばタブレット端末)を困難解消のための支援ツールを使うにはどうすればよいか,(3)実際の支援について,言語によるコミュニケーションが困難な人が,どのようにして自分の意思を表現する方法を獲得し得るのか,(4)就労の支援について,どのように組織や外部の社会的資源を活用するか,の4つの観点から研究成果を報告した.なお,論文としてはまだ報告できていないものの,本研究に参加した発達障害のある当事者4名のうち3名は地域の生活・就労支援センターや支援事業所の社会的資源を通じて企業や事業所に就労し,残る1名は在学中である. 本研究は探索的な研究であるため,一般就労が困難な発達障害者全てに対して有効な社会参加手法を開発できたということはできないが,従来の方法とは異なる簡便な支援策のアセスメント法や,身近にあるテクノロジーを活用した支援方法の提案は,一般就労が困難な発達障害のある当事者やその支援者に対する有益な方法になると考えられる.また言語によるコミュニケーションが困難と考えられている人が,実は別手段を介することで自分の意思を表出する手段を確立しているということを示した成果は学術的にも重要な成果をもたらしたと考えられる.
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