重度・重複障害児(者)の医療的ケアへの教育的対応のあり方について,コミュニケーションの視点から実証的に明らかにすること,医療的ケア場面への教育的対応の意義について検討することを目的とし,前年度に引き続き,重度・重複障害者1名を対象とした教育実践並びにビデオ分析を行なった(事例1)。また,本年度は,鼻腔内吸引、口からの水分補給に対し強い拒否的行動を示す重度・重複障害児を担任する特別支援学校教員とともに,医療的ケア場面における教育的対応のあり方について検討を行なった(事例2)。 事例2は,鼻腔内吸引に対し強い拒否反応を示す重度・重複障害児であり,吸引時には担任教師らが児童の身体を抑えざるを得ない状況にあった。また、口からの水分補給に対しても,手の甲を口に当てて働きかけを拒否するかのような様子を示していた。そこで,対象児の手の甲を口元に当てる行動を外界との相互交渉の間口を縮小している姿として捉え,吸引や水分補給の際には対象児の口や鼻に触れることで打診を行なうとともに,対象児の手が口元から離れた際に吸引用のチューブや水分補給用の容器を近づけることとした。また,働きかけの採集に再び手を口元に当てる様子が見られた際には,対象児の手が口元から離れるまで働きかけを控えることとした。こうした対応を続ける中で,吸引や水分補給に際し,対象児が働きかけを拒むように手を口元に当てる行動が減少した。医療的ケアへの対応において,対象児(者)が状況の変化を捉え,そうした変化に対応した行動調整を行なうための時間的“間”を保障することの重要性については事例1においても示されているが,対象児(者)が必要とする時間的“間”と対象児(者)の外界に向かう動きを微弱・微細な状態変化から見極めることが,働きかけのタイミングを調整し,コミュニケーションとしての医療的ケアを展開させるためには重要であった。
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