1971年の学習指導要領改訂以降、重複障害教育では「個」を基点とする教育が追究されてきた。しかし、教師が「どのような将来像を見通して、いつ、何を指導すべきか」に悩む現状は、教育課程編成の柔軟性ゆえの課題を示す。特別支援学校はこれまでの指導の成果を総括し、学校を基盤としたカリキュラム研究に着手する時期にある。 そこで本研究では、次の点を明らかにすることを目的とした。1点目は、重複障害のある子どもの指導を担う教師が、子どもの将来の学習内容について描く見通しや、自立活動の指導目標・内容を設定する際の視点、根拠の実態である。2点目は、これまでに実施した指導の成果と課題である。卒業後の観点から保護者と在学時の指導を担当した教師に評価してもらった。 特別支援学校(肢体不自由)教師が描く指導の見通しは平均2.9年(SD=1.75)であり、「日々の指導の見通しに対する困難さ」や「自立活動の指導における個別の指導計画作成上の不安」が指導の見通しに影響を及ぼしていること、障害児教育経験年数の浅い教師ほど「自立活動の指導における個別の指導計画作成上の不安」が有意に高いことが明らかになった。 卒業生の多くはデイサービスを利用しながら在宅生活を送る中、保護者の加齢に伴い姿勢変換の機会が制限され、在学中に習得した姿勢保持能力や周囲への関心を低下させる実態にあり、保護者は、在学中の身体の動きに関する指導について、卒業後の生活を踏まえる視点が不十分だった点を指摘した。一方、学校教育の成果として、外界への関心の向上や人と関わる力を評価したが、具体的な目標や評価等、意図的な指導の形跡を指導記録の記述に確認することはできなかった。在学時の指導を担当した教師を対象とした面接調査では、指導目標・内容の設定に戸惑い、子どもの成長を描ききれないまま身体面の課題に焦点化した指導を重ねた教師の実態が明らかになった。
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