昭和戦前期日本の聾唖教育に口話法が普及した教育的基盤には、言語指導理論の確立、聾唖学校教師が集う研究会での実践の共有、専門的教員の養成と補充があった。そして社会的基盤には、大正12年盲学校及聾唖学校令による社会的支持と学校経営の安定、聾唖児を育てる家族からの早期からの教育への期待があったと考察した。一方、口話法導入の過程では、「劣等児」問題に示されるような、言語指導の理論と実践とのかい離の問題への対処が求められていたし、聾唖学校卒業生や聾唖者教員の自律性の変容(喪失)がもたらされた。口話法導入とその多義的意味への歴史的理解は、日本及び欧米諸国に共通して必要なものである。
|