研究概要 |
今年度はp進Hodge理論の研究において得られた経験をもとに, もともとの理論である複素数体上のHodge理論に対して考察を与える研究を行った. 40年以上前に, Pierre Deligne によって, Hodge理論は非常に洗練された形で理論が整備されている. 一方で, このHodge理論において, 混合Hodge構造のカテゴリーと呼ばれるものが構成されているが, このカテゴリーは幾何的な情報をあまり含んでおらず. 代数多様体上のサイクルを捉えるのには不十分であることが分かっていた. 特に, (存在が予想されている) motives のカテゴリーにおけるB.B.Mフィルター (Bloch, Beilinson, Murreらによる) と対応するべき構造が混合Hodge構造のカテゴリーには存在していない. ところが, Hodge理論は既に, 完成したものとして, 数学の研究において, あまり注目されることはなかった. 一方で, 10年ほど前に北海道大学の朝倉政典氏によって, この困難を克服するために, Arithmetic Hodge構造のカテゴリーと呼ばれるカテゴリーを京都大学の斎藤盛彦氏による混合Hodge加群の理論を使うことによって, 提出している. こうしたなか, 当該研究者は, まったくの独自の視点から, 幾何的な情報を十分に含んでいると思われる新しいカテゴリーを提案することができた.
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
p進Hodge理論の研究がもともとの理論である複素数体上のHodge理論の研究につながることになった. 新しく構成したカテゴリーは非常に単純なアイデアがもとになっているが, 幾何的な情報を十分に含み, 代数多様体上のサイクルを捉えられるのではないかと期待している. しかしながら, このカテゴリーが重要であるという確定的な証拠はなく, 当該研究者の自己満足に過ぎないかもしれない. 特に, (存在が予想されている) motivesのカテゴリーとの関連性が不透明で, motivesの構成にどのようにつがっていくべきかということについては全く分からないという状態であり, この点が研究として, 不満が残るところである.
|
今後の研究の推進方策 |
上で述べた新しく構成したカテゴリーとそのアイデアは複素数体上のHodge理論だけではなく, さまざまな数学において, 応用を持つのではないかと期待している. 特に, 研究テーマである数論幾何学への応用を考えている. 具体的には, 上のカテゴリーを用いることで, 数論的多様体上のサイクルを捉えられるのではないか, 特に, 有理数体上定義された楕円曲線上の有理点の研究へとつながっていくのではないかと考えている. このような数論への応用のために, 類対論, 岩澤理論, 保系形式, K理論などの数論のさまざま分野との関連を見ていきたいと計画を練っている.
|