研究課題/領域番号 |
23740010
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研究機関 | 名古屋大学 |
研究代表者 |
大橋 久範 名古屋大学, 多元数理科学研究科, 特任助教 (40547006)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2015-03-31
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キーワード | K3曲面 / エンリケス曲面 / 自己同型 / マシュー群 |
研究概要 |
二つの論文が受理された:[1] Hutchinson-Weber involutions degenerate exactly when the Jacobian is Comessatti. [2] K3 surfaces and log del Pezzo surfaces of index three. [1]はヤコビアンクンマー曲面におけるHutchinson-Weber対合の退化を調べてComessattiアーベル曲面を見出したものであり、[2]はK3曲面を位数3の自己同型で割って得られる有理曲面を調べてlog del Pezzo曲面の構成に応用したものであり、どちらも代数曲面の自己同型について新しい知見を得たものと言える。特に[1]においては古典的なWeber hexadの集合上に対称群の外部自己同型から誘導された構造が存在することを示した点で、新しい視点を切り開くことができた。 エンリケス曲面の自己同型についても進展があった。2010年度に向井により提案されたMathieu型の自己同型の構成の問題と、そのような自己同型からなる有限群の分類の問題について、どちらも基礎となる考え方と定理が確立したように思う。特に、エンリケス自身が用いた六次曲面表示を使った自己同型の研究が非常に有用であることがわかった。関連して、エンリケス曲面の中にHutchinson-Goepel型というクラスを定義し、それらと上記のMathieu型の自己同型の理論との関係を構築できたのも大きな進展であった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
エンリケス曲面の自己同型についてはNikulin,Dolgachev,Barth-Petersらによるモジュライ的に一般の曲面の自己同型群の計算と、Nikulin,金銅による有限な全自己同型群を持つ曲面の分類が大きな仕事として80年代までになされていたのだが、それら以外で具体的に自己同型群を記述できた仕事としては今回達成できたMathieu型の自己同型群の場合が最初であるように思う。従って、今回の研究はエンリケス曲面の自己同型群を調べて行く上での大きな到達点の一つと言ってよいように思う。 一方、「完全に全ての」有限自己同型群を記述するという観点から見れば、まだまだ考えなければならない場合は多い。従って、現在の達成度の研究計画の中での位置づけとしては、十分に順調であるが、当初の計画を飛び越えているわけでは(まだ)ない、と考えている。
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今後の研究の推進方策 |
エンリケス曲面の自己同型のなす有限群の分類の問題について、Mathieu型という限られたクラスであっても達成できたことは大きい。一方、非Mathieu型を含めた自己同型群を考えて議論をしようとすると、その多様性の中には大きな障害があることがわかってきた。特に、エンリケス曲面の場合には自己同型群の例を構成する方法がK3曲面の場合よりも難しく、これにより、存在するかしないかが判定できない場合の数が極めて大きくなってしまう。これは、部分的な解決を繰り返して全面的な解決にたどり着くという基本的なアイデアの根本的な障害になっている。 今後の方策として、一つは、やはり部分的な解決を目指し研究計画通りに分類を進めていく方向がある。他の方針として、Mathieu型に内在された「状況の良さ」を分析していく方向がある。これからは後者の方針も念頭に置きつつ研究を進めていこうと考えている。こちらの問題からはエンリケス曲面だけでなく有理曲面やJacobian Kummer曲面の研究が再び必要になってくると思う。
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次年度の研究費の使用計画 |
エンリケス曲面のMathieu型自己同型の分類問題の解決は、関連した分野の研究者にも関心を持ってもらえると考えている。従って、この機会を利用して代数曲面の自己同型から広がる面白い数学の一分野について、より多くの人に知ってもらえるよう、これからもできるだけ講演機会を逃さないようにしたいと思う。そのための旅費は申請時にある程度確保してあるつもりである。また、論文を書く際に必要なコンピューターについてだが、最近Windowsのアップデートが頻繁に行われ、現在使っているノートパソコンで全て対応していくのにも限界を感じつつある。そこで、パソコンを買い替えることも考えているが、データ移管に要する手間との兼ね合いである。
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