研究課題/領域番号 |
23740011
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
高井 勇輝 東京大学, 数理(科)学研究科(研究院), その他 (90599698)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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キーワード | Hilbert 保型形式 / 相対類数 / L-関数の特殊値 / 重さ半整数の保型形式 / Galois 表現 |
研究概要 |
保型形式の中には, その Fourier 展開係数に類数などの重要かつ未知な数論的対象が現れるものが存在する. 研究代表者は, そのような保型形式の Fourier 係数の性質を調べることで, 難解な数論的対象の性質に関する研究を行った. 上記の方法による保型形式の数論への応用に, 頻繁に使われる Sturmの定理と呼ばれる定理が知られている. この定理は, 保型形式が有限個の Fourier 係数で決定されているという定理である. この Sturm の定理の一般の有限次数総実代数体に関する Hilbert 保型形式への類似について得ていた結果の証明の細部を詰めてプレプリントとしてまとめ, 雑誌に投稿した. また Hilbert 保型形式の数論への応用についての研究を行い, 基礎体である総実数体が有理数体上巡回拡大であるときに, ある合同条件を満たす素数により割れない相対類数を持つ総虚二次拡大が無限に存在すること、またその個数の下からの評価を得ることにほぼ成功した. その証明には重さ 3/2 の Hilbert モジュラー Eisenstein 級数を対角に制限することで楕円保型形式の場合に帰着するを用いている. 現在, 証明の細部を詰め論文を作成しつつ, 同様のアイデアで証明されると期待している同様の問題、特に相対岩澤不変量の消滅性についてと Hilbert 保型 L-関数の特殊値のp-進での非零性についての問題を検証している.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
重さが半整数の Hilbert 保型形式を用いた数論への応用に関しては, これまで誰にも進展させることをできないでいた. 研究代表者による相対類数の非可除性に関する進展は, 基礎体である総実代数体が有理数体上巡回拡大という仮定の下だとしても, その方向性での保型形式の数論への応用に関する一つの指針を与えることになり, 今後の発展の基礎を固めたと言える. 特に同様の方法を用いることで, Hilbert 保型形式の特殊値の p-進的性質や総実数体の上の総虚二次拡大に関する相対岩澤不変量の消滅性などについても調査できるという点で幅広く応用が利く. またガロア表現への保型形式の応用についてはわずかに進展しているが, 論文にまとめる程のインパクトを持つ結果ではないため, 得られた結果をまとめてプロシーディングに提出しようと考えている. それらの進展を, 以前研究代表者により提出された研究計画と照らし合わせると, 本研究がおおむね順調であると言える.
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今後の研究の推進方策 |
今後も引き続き, 様々な保型形式の整数論への応用を行う予定である. 特に有理数体上巡回な総実数体に対する Hilbert 保型形式の数論への応用に関して初年度に得た結果をより一般の総実数体に拡張することを中心に試みる予定である.その為には, 重さ半整数の Hilbert 保型形式に作用する Up-作用素を素イデアルに対して正しく定義することや Hilbert 保型形式に対する Sturm の定理に関する研究代表者による結果を改良する必要がある. また, 岩澤不変量への応用上 Hilbert モジュラー多様体の悪い還元での構造についても調べていく予定である. ガロア表現への保型形式の応用についてはわずかに進展しており, 得られた結果をまとめてプロシーディングに提出しようと考えている.
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次年度の研究費の使用計画 |
これまで, 情報の収集に重きをおいて研究費を使っていた. 次年度は, 自分の結果を世界に発信し, 研究分野の近い研究者との理解を共有することで研究を推進していこうと考えている. そのために, 海外で行われる研究集会や学会への出席し講演することや, 自分の研究に興味を持つ研究者や, 自己の研究の発展に必要な知識を持つ研究者らと直接会って話すことをより頻繁に行うべきである. 次年度の研究費を, そういった国内外問わず自己の研究内容の発信に重きをおいて使用することを予定している.
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