研究課題/領域番号 |
23740011
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
高井 勇輝 東京大学, 数理(科)学研究科(研究院), 研究員 (90599698)
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キーワード | 相対類数の非可除性 / 相対岩澤不変量の消滅 / 半整数ウエイト Hilbert 保型形式 / Sturm の定理 |
研究概要 |
本年度は主に, 与えられた素数 p と総実代数体に対して, その上の総虚二次拡大で素数 p で割れない相対類数を持つものの個数の評価に関する研究を行った. そのような総虚二次拡大が無限に存在することは既にかなり一般の状況で Naito により証明されていた. そこで次のステップとして, その個数の評価を考えるのは自然な問題である. 総実代数体が有理数体のときは, その個数の密度について Cohen と Lenstra による有名な予想があるが, p=3の場合を除いて詳しい評価はあまり知られていない. 1999年, Kohnen と Ono により総実代数体が有理数体で p>3 の場合に, 半整数ウエイトの楕円保型形式を使うことで, その個数の粗い下からの評価が得られた. この Kohnen-Ono の手法を拡張することで, 総実代数体が有理数体上 Galois で素数 p がある仮定を満たす場合に相対類数が p で割れない総虚二次拡大の個数の判別式に関する評価を得ることに成功した. 証明は, 研究実施計画作成の段階で考えていた Hilbert 保型形式に対する Sturm の定理を使う方法ではなく, 半整数ウエイトの Hilbert 保型 Eisenstein 級数を対角制限することで楕円保型形式としてみなし Sturm の定理を使うという方法をとった. さらに Friedman の判定法により, 相対類数の非可除性に加えて素数の分解も考慮することで, 相対岩澤不変量が消滅する総虚二次拡大の個数に関する結果も得られた. この結果と同様の方法で Hilbert 保型形式の L-関数の中心値の二次捻りの方向に関する mod p non-vanishing に関する結果も得られると期待される.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
本研究課題の最大の目的であった, 総実代数体の総虚二次拡大の相対類数の非可除性に関する結果についてほぼ満足の行く結果が得られた. 特に, 半整数ウエイトの Hilbert 保型形式を対角制限する方法で得られる結果としては, ほぼ最良の結果であると思える. 対角制限を考慮しないことで, 「総実代数体が有理数体上 Galois である」という仮定を外すことができるかもしれないが, その場合, 研究代表者による結果「Hilbert 保型形式に対する Sturm の定理」を使うことになり, そこに現れる, ある bound が大きすぎるため, この方法での証明は不可能と思われる. その為, 半整数ウエイト保型形式を使う方法での結果として、本研究課題で得られた結果より良いものは得られないと推測する. 次年度ではこの結果を拡張する方向ではなく、そこで生じたアイデアを別のものに応用する方向で研究を行いつつ, 上記の結果を多くの場で紹介することにも力を注ぎたい. Hilbert 保型 L-関数の中心値の mod p での非零性に関しては, かなり特殊な状況では上記の相対類数の非可除性で用いた方法で証明できている. その状況とは総実代数体が有理数体上 Galois で次数が奇数であり素数 p がある条件を満たすもので, さらに Hilbert 保型形式が CM であるという仮定の下であり, より一般にはまだできていない. この問題はこの先に, 総実体上定義されたアーベル多様体の Tate-Shafarevich 群の情報などの結果と絡むことが期待され目下研究中である.
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今後の研究の推進方策 |
今後は, 次年度では今年度までに得られた相対類数の非可除性に関する結果を拡張する方向ではなく、そこで生じたアイデアを別のものに応用する方向で研究を行う. また相対類数の非可除性に関する結果を国内外と多くの場で紹介することにも力を注ぐ. 相対類数の非可除性に関する結果のアイデアの応用として Hilbert 保型 L-関数の中心値の二次捻り方向に関する mod p での非零性がある. 本問題については, かなり特殊な状況では上記の相対類数の非可除性で用いた方法で証明できている. その状況とは総実代数体が有理数体上 Galois で次数が奇数であり素数 p がある条件を満たすもので, さらに Hilbert 保型形式が CM であるという仮定の下であり, より一般にはまだできていない. この問題はこの先に, 総実体上定義されたアーベル多様体の Tate-Shafarevich 群の情報などの結果と絡むことが期待され目下研究中である. また, 2次元 mod p Galois 表現の同型性の判定法の一般化としての, pseudo-representation の同値性判定法に関しても結果が得られている. 本結果と expert はよく知っているが出版物として書かれていない結果である楕円曲線の同種性の判定法とを合わせて, どこかのプロシーディングに投稿する予定である.
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次年度の研究費の使用計画 |
今年度までに, まとまった結果が得られたこともあり, 次年度では本研究課題で得られた結果を多くの人に知ってもらう為, 多くの学会, 研究集会に国内外問わず参加することを昨年度よりも強化する. 特に, Konhen 氏や Ono 氏には直接会って結果に関して説明したいと考えているので, ドイツとアメリカに少なくとも一度ずつは渡航する予定である. なので次年度の研究費の大部分は国内旅費と海外渡航費として使用する. また, 研究に必要な資料の書物などの購入にも使用する.
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