研究課題/領域番号 |
23740017
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
高木 聡 京都大学, 理学(系)研究科(研究院), 研究員 (20456841)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2015-03-31
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キーワード | 国際研究者交流 / フランス / 国際研究者交流 / オーストラリア |
研究概要 |
今年度は引き続き、研究課題であるA-スキームの基礎理論の構築を進めた。特にA-スキームの正規化がスキームの場合と同様に可能であることを示し、それが有限型という条件を外した上で固有であることを示している。実際、スキームの場合でも正規化は有限型とならない場合が多く、この有限型を仮定しない形での定式化の方が優れている。また、A-スキームのうちどのようなものがスキームの射影極限で表せるかということに対して特徴づけを与えた。この系として、クラシカルな永田の埋め込み定理を改めて証明できることを示した。これについては、分離的有限型射の場合についてはZariski-Riemann空間の間の射が開埋め込みになるというA-スキーム独自の結果を本質的に用いている。A-スキームの定義はデータの与え方が独特で、旧来のGrothendieck Topologyとの間の関連性が分かりづらいものがあった。そこで筆者はさらにC-スキームというものの定義をし、A-スキームの一般化を行うとともにスキームの圏を普遍的性質によって特徴づけた。これには次のような動機づけがある:数論幾何学の一分野としてF1上の幾何学というものがあり、ここではモノイドなどからスキームのような幾何学的対象を構築、分析する。しかし、そのモノイドスキームは人によって定義がバラバラであり、定義した概念同士を比較する、あるいは正当化するためには結局その圏の性質を普遍性によって特徴づけるしかない。筆者の構築したモノイドスキームの圏はこの普遍性を持つという意味で通常のスキームと同じ性質を持ち、従ってその意味で正当な定義であると言える。さらに、最近になってこうしたスキームの一般化を考えることで有理整数環のスペクトラムのアラケロフコンパクト化を普遍性により定義、実現できる圏を構築することに成功している。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
A-スキームのなかでスキームの射影極限で実現できる対象の特徴づけや、スキームの圏の普遍性による特徴づけを与えることにより、従来のスキームとA-スキームとの間の相違や関連性を明確にしたのが本年度の研究である。当初考えていた計画にある、加群の理論の構築とはやや方向が異なってきているが、これは加群を定義するだけでは何ら研究の新鮮味がなく、従って何らかの応用を見込んだうえで考えなければならないため、方向転換は必然であるともいえる。幸い、有理整数環のアラケロフコンパクト化を定式化できる圏を実現することができたため、そこでの加群を考えることが従来にないトピックとして現れ、かつ重要であることが分かってきた。アラケロフコンパクト化の上での加群は通常の環の加群とは振る舞いを異にしており、ねじれなしの場合には大まかに言ってノルム付の加群として捉えられる。ノルム付き加群の圏はアーベル圏でなく、先行研究は未発達なままである。しかし、一方で通常の加群と同じくテンソルやinternal hom函手が存在し、K理論の構築が見込めるという意味で発展性が期待できる。アラケロフコンパクト化は一種のZariski-Riemann空間であり、その上の加群を研究することはA-スキーム上の加群を考えていることの一つのヴァリアントである。その意味で、表面上は研究の方向性がやや変わってきているが、全体としてはより豊かな実りを期待できる方向に発展していると見てもよい。
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今後の研究の推進方策 |
「現在までの達成度」でも述べたように、有理整数環のスペクトラムのアラケロフコンパクト化の上での加群を重点的に研究していく。ねじれなしの場合には、これらの加群は通常の言葉でいうとノルム付き加群として捉えられる。ノルム付き加群の圏はアーベル圏でなく、先行研究は未発達なままである。しかし、一方で通常の加群と同じくテンソルやinternal hom函手が存在し、K理論の構築が見込めるという意味で発展性が期待できる。一番単純な非自明有限生成ノルム付き加群の場合でも、非常に興味深い振る舞いを示す。ノルム付き加群は対称多面体とほぼ同一視でき、凸体の幾何学との関連性が見いだされる。それだけでなく、モジュライを考えることができ、このモジュライのコンパクト化を考えると境界上の点を加群として解釈する際には、「無限小」を加えた、超準解析の意味での超実数を係数として考慮に入れる必要が出てくる。一方で、アラケロフコンパクト化を実現する圏は構築したとはいえ、現段階ではその定義ははまだ人工的であり、それを普遍性を持って定式化するのは非常に重要である。上で述べたA-スキームの圏も、まだ実際には普遍性で特徴づけはできていない。その上で、アラケロフ多様体の本当の定義とは何か、を考えていきたい。現行のアラケロフ幾何学では、無限素点上にどのような構造を乗せるべきか、まだ統一的見解が得られていないということは注目に値する。
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次年度の研究費の使用計画 |
既に海外研究集会への出張が一つ予定に入っている。可能であればまたフランスの知人研究者との研究打ち合わせを行いたい。また大学の休業期間中には国内の研究集会等に積極的に参加する予定である。出張の際に持ち歩くのに便利な小型情報媒体の購入を考えている。その他研究に必要な書籍を購入することを考えており、次年度はこれらで予算をほぼ使い切ると考える。
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