非特異複素射影曲面X上の偏極Hに対し、H安定な連接層のモジュライスキームM(H)は具体的な高次元多様体である。本研究の目的は、M(H)を双有理幾何学(例、小平次元や飯高プログラム)に着目して性質を解明したい、ということである。平成27年度は、前年度より引き続き、Xは小平次元1の楕円曲面とし、層のランクが2、第一チャーン類が0の時に、この問題を考えた。その結果、次の結果が得られた。 (1) M(H)の飯高ファイブレーション(多重標準写像より作る)をモジュライ理論的に解釈した。その結果、M(H)のK-次元(素朴な意味での小平次元)を評価した。 (2) 連接層Eが「generic fiber上でランク1の部分層を持たない」という条件を満たすとする。(第2チャーン類が十分大きいと、この条件を満たす層たちは、M(H)の中で稠密開集合をなす。だからこの条件は弱い条件である。)すると、Xのmultiple fiberの数が比較的少ない時、EはM(H)の中で標準特異点になる。 (3) Xの特異ファイバーが「かなり少ない」時、M(H)の特異点は必ず(2)の条件を満たす。(1)と合わせると、M(H)がコンパクトの時(例えば層の第2チャーン類が奇数の時)M(H)の小平次元が計算できる。小平次元は次元の約半分である。 また、平成26年度に国内外数か所で研究発表した時、複数の方より、特異点を与える連接層の実例はあるかと質問を受けた。そこでそのような実例を考え、どうやら作れそうであるという見通しを得た。研究期間全体を通してM(H)の双有理幾何的性質を考えた結果、(A) Xがエンリケス曲面の時、(B) Xが小平次元1の楕円曲面で、特異ファイバーがかなり少ない時、にM(H)の小平次元を求めることができた。
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