研究課題/領域番号 |
23740045
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研究機関 | 神戸大学 |
研究代表者 |
佐治 健太郎 神戸大学, 理学(系)研究科(研究院), 准教授 (70451432)
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キーワード | 特異点 / 波面 / 特異点の認識問題 / 単純特異点 / モラン写像 |
研究概要 |
本年度の研究実績は、特異点の判定法の研究、そのトポロジーへの応用、ミンコフスキ空間内の擬球面の双対性を利用して得られる曲面の研究、波面の微分幾何学的研究に大別される。 特異点の判定法については今までは定義域の次元が像域の次元以下の場合のみを扱っていたが、そうでない場合の研究を行った。その場合は従来特異点を自然に特徴付ける不変量を取り出すことが困難であったが、本年度に新たな知見を得て、低次元モラン写像にあらわれるカスプ特異点の場合に判定法を書くことができた。判定法のトポロジーへの応用について、写像芽に対して連続変形でうつりあうという、A同値より少々強い同値関係を導入し、これによるA同値な写像芽の分類について研究した。これは、写像がの局所的な変形に関する性質の研究である。同次元モラン写像について、この同値関係による同値類の個数を完全に決定し、さらにその不変量の意味を明らかにした。また、応用として、実の4次元から4次元への単純特異点の分類の研究を行い、それを安定写像芽に摂動した際にあらわれる特異点の数についてこの分類を応用して新たな解釈を与えた。 擬球面の双対性を利用して得られる曲面の研究について、1パラメーター付きの双対性に関しても双曲空間と光錐内の曲面に関して先行研究と同様の結果が成り立つことを確認した。 波面の微分幾何学的研究について、カスプ辺の定義域の座標変換と像域のユークリッド変換のみを用いた標準形を作り、その3次までの係数の幾何学的意味を全て明らかにした。の中で内在的なものについて、ガウス曲率や平均曲率の有界性との関係を明らかにした。さらに、ケンデリンクの定理について特異点を持っている場合の考察を行い、近年盛んに研究されている特異点での曲率がケンデリンク型の定理をみたすかどうかを調べた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究は特異点の判定法を作り、それを広範囲の幾何学に応用するのが目的である。判定法について、定義域のほうが次元が高い場合については従来困難が予想されていたが本年度に新たな方法を開発でき、実際それを利用して低次元モラン写像にあらわれるカスプ特異点の場合の判定法を作ることができた。カスプ特異点は基本となる特異点であり、モラン写像はこのカスプ特異点の性質を帰納的に高次の特異点にあてはめていくことで得られる。従って、カスプ特異点での考え方を参考にすれば高次の特異点を持ったモラン写像の判定法を作ることができると思われる。また、これによりさらに多くの特異点に関して判定法を作っていけることができると思われる。従って判定法の研究についての研究はは順調に進展している。 判定法の応用について、連続変形でうつりあうという、A同値より少々強い同値関係の研究に関しては単純な内容であるが判定法が必要不可欠であり、写像芽の性質に関して判定法を応用して意味の大きい研究が行えたと思われる。また、さらに退化した特異点に関して安定写像芽に摂動した際にあらわれる特異点の個数についても判定法を有効に使うことができた。擬球面の双対性を利用して得られる曲面の研究に関して、判定法を利用してツバメの尾と呼ばれる特異点とカスプ的交差帽子と呼ばれる特異点の双対性を示した。 微分幾何への応用について、近年は一番基本的なカスプ辺を扱うことは少なくなったが、カスプ辺にもう一度立ち返り、その微分幾何学的性質を研究し、3次までの微分幾何学的不変量が6つであることを示した。これらの不変量の性質についてはさらなる研究が必要であり、次年度以降の大きな研究課題を得ることができた。従って判定法の応用に関する研究に関しても順調に進展していると判断する。
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今後の研究の推進方策 |
判定法について定義域の次元が高い場合のモラン特異点の判定法を作る。今年度のカスプ特異点の判定法は特異点のみでの座標に制限を課していたが、これをうまく外すことを目指す。さらに、余階数が2以上の特異点に関しての判定法の研究も行う。判定法の応用に関して、実の4次元から4次元への単純特異点の分類を完了させ、その幾何学的性質を明らかにする。また、写像芽を局所的な球面に制限した写像にあらわれる特異点の個数に関する研究も行う。同時に連続変形でうつりあう同値関係の研究において、実の5次元から5次元への単純特異点は、モラン写像の局所的性質が次元が4の倍数で循環することから、これまでの研究とは異なる重要な意味を持つと思われるので、この特異点の分類も行う。さらに、これらの特異点の集合が大域的にどのような性質を持つのかを調べる。特異点に符号がつけられると符号和をとることができる。局所的な変形にあらわれる特異点の符号和と同時に大域的な符号和は、定義域多様体の位相と関係している可能性が高く、この関係を明らかにすることを目指す。 特異点の微分幾何学的研究に関して、カスプ辺の3次までの情報をすべて与える不変量についてのさらなる研究を行う。具体的にはカスプ辺がこれらを保ってなめらかに変形できるかどうかを考察し、なめらかに変形する例を作る。その例を考察し、3次までの情報の幾何学的意味を考える。高次元カスプ辺の微分幾何学的研究も同様に行う。さらに、特異点におけるケンデリンク型の定理について、これまで得られている定義域の座標変換と像域の距離を保つ座標変換を使った標準系を用いて、その係数を射影と切り口の情報で記述することを目指す。さらに、近年重要性が増しているリー球面幾何学の問題設定であらわれる特異点に関しての解析も行う。
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次年度の研究費の使用計画 |
旅費について、5月に弘前で行われる特異点の研究集会と12月に京都で行われる特異点の研究集会に参加する。また、その他の研究集会や教室セミナー等にも積極的に参加し、最新の研究動向の把握に努める。 また、北海道大学・埼玉大学・東京工業大学・横浜国立大学・九州大学を訪問し同校の研究者と研究連絡を行う。 8月に行われるエジンバラでの研究集会にも参加する予定である。 特異点論関連書籍や論文集、位相幾何学・微分幾何学関連書籍で大学図書館に置いていないものは基礎的な知識を高めるために購入する。
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