研究課題/領域番号 |
23740046
|
研究機関 | 岐阜大学 |
研究代表者 |
田中 利史 岐阜大学, 教育学部, 准教授 (60396851)
|
キーワード | 国際情報交換(韓国) |
研究概要 |
当該年度の研究の目的は結び目のさまざまな量子不変量の,結び目コボルディズムに関する位相的性質を明らかにすることである。研究内容は以下の3つに大別される。 (1) 空間グラフの位相的性質の研究:空間グラフの量子不変量を用いた結び目コボルディズムに関する研究を行っている。2011年のD. O'Donnol, E. Pavelescuの空間グラフの研究において与えられた,結び目コボルディズムに深く関連している不変量であるLegendrian空間グラフのベネカン数についての研究を行った。特に4頂点完全グラフの埋め込みで得られる空間グラフに関して,すべてのサイクルで与えられる結び目のベネカン数が極大となるような無限個の具体例の構成を結び目の量子不変量であるKauffman多項式を用いて行うことに成功した。このような例はこれまでに知られていない。この研究を通して,今後,いつ空間グラフのサイクルがスライスとなるかについて研究を進めていきたいと考える。 (2) 結び目の正指数の研究:結び目コボルディズム不変量の一つである,Rasmussen不変量の位相的性質の研究を行った。Rasmussen不変量は正結び目の場合,上で述べた極大ベネカン数と同等であることが知られている。私は,与えられた結び目がどの程度正結び目に近いかを計る量として,結び目の正指数を定義し,この正指数のRasmussen不変量による評価式を示し,数多くの計算例を与えた。この研究については論文として作成し,当該年度の大学紀要として発表済みである。 (3) 結び目の対称和の研究:浦項工科大学のJae Choon Cha教授との共同研究により,結び目の対称和のKhovanovホモロジーや結び目Floerホモロジーに関する研究を行い,不変量の計算を行うことに成功した。とくに不変量が一致するような,結び目対の新たな例の構成に成功した。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
空間グラフの研究においては,4頂点完全グラフの埋め込みから得られる空間グラフのサイクルを結び目と見なし,そのベネカン数がいつ極大となるかを, 量子不変量であるKauffman多項式を用いて調べることが出来,ある程度の成果を得ることができた。 正結び目はスライスでない結び目の例として知られているが,結び目の正指数の研究においては,結び目がどの程度正結び目に近いかをRasmussen不変量を計算することで評価することが出来た。 さらに,結び目の対称和の研究において浦項工科大学のJae Choon Cha教授と共同研究を行うことで,結び目の対称和に関してKhovanovホモロジーや結び目Floerホモロジーが一致するような新たな例を与えることに成功した。 一方で,HOMFLYPT多項式やKauffman多項式の対称和に関する公式については,その計算の複雑さのため,一般的な公式を与えることに成功していない。いくつかの重要なリボン結び目の無限族に対し,HOMFLYPT多項式やKauffman多項式の公式を与えることが今後の課題である。又,リボン結び目の特徴づけに関する重要なLammの予想である,すべてのリボン結び目は対称和表示を持つかという予想は未解決であり,この問題を解決することが今後の課題である。
|
今後の研究の推進方策 |
結び目コボルディズムは,位相幾何学の1分野として1950年代より活発に研究されるようになり,現在では結び目の研究としてだけでなく,4次元多様体の研究においても重要な分野となり,世界中で活発に研究が行われている。最近でもRasmussen不変量等の有効な不変量が新たに構成され続けている。 今後の研究においては,以下の3つの課題について研究を行う。 (1) 空間グラフのコボルディズムの性質を調べる:2011年のD. O'Donnol, E. Pavelescuの空間グラフの研究を足掛かりとし,空間グラフのコボルディズムの性質を,そのサイクルである結び目の量子不変量を用いて行う。このような研究の取り組みは重要であるがこれまで行われていないため,このような方向で研究を発展させることは有意義であると考える。 (2) 結び目の対称和の不変量の公式を与える:結び目の対称和の研究は結び目コボルディズムの分野で重要であるが,その性質を調べるには,不変量の計算が不可欠である。特に対称和のいくつかの無限族に関するHOMFLYPT多項式やKauffman多項式等の量子不変量の公式を求める。 (3) 未解決問題に取り組む:2000年に与えられたLammの予想である「すべてのリボン結び目は対称和であるか」という予想は未解決であり,この問題を解決することが今後の課題である。今後は,不変量の計算と合わせて,幾何学な手法を用いて取り組んで行きたいと考える。
|
次年度の研究費の使用計画 |
該当なし
|